翌日、悠仁から連絡が来た。
それはあまりにも突然な話だった。
悠仁のおじいちゃんが、亡くなったそうだ。
悠仁のおじいちゃんが入院していたことは知っていたし、なんならお見舞いだって家族で何度も行ったし、私だけで行くことだって何度もあった。
だからこそ、あまりにも突然な死に驚いた。
だが、悠仁から聞いた話ではおじいちゃんは満足気に逝ったんだそうだ。
それを聞いて、少しほっとした。
おじいちゃんが幽霊になっていたらまかせて。
直ぐに魂葬するからね。
「で。そちらの1人で目隠しして遊んでおられる方はどちら様?」
「どーも!五条悟でーす」
「どうも。黒崎壱華と言います」
「ごめん、壱華姉ちゃん。その、話したいことあって…急に来ちゃったんだけど今大丈夫?」
「大丈夫だけども…」
なんだろうか。
悠仁の霊圧が、おかしい。
ここにいるのは悠仁と目を覆った白髪の人だけなのに、目の前から感じる霊圧は3つ。
悠仁から2つの霊圧が感じられる。
「悠仁、私の部屋わかるでしょ?お客さん案内してくれる?お茶入れて私あとから行くから」
「あ、うん」
「お邪魔しまーす」
悠仁はこっちだよ、と私が言った通り慣れたように家の中を進んでいく。
それを見送って、ポットに入れていたお湯をまた沸かす。
「……………」
五条悟と名乗ったあの人。
霊圧が隊長級だったなぁ。
その中でも、トップの方のだ。
それに、雰囲気があれば確実に戦う人の空気。
あの人は相当強い人だ。
「……………はぁぁぁぁぁ」
とはいえ、悠仁は何やら面倒なことに巻き込まれたに違いない。
そして、悠仁から感じた悠仁ではない霊圧。
あれは虚とか、そういった類の霊圧だ。
よく見る、虚もどきのアレ。
悠仁に取り憑いたとでも言うのだろうか。
でも見えなかったしなぁ。
「………考えてもわかんないか」
私は頭は悪くないが、どうも柔軟性はあまりない凝り固まった頭脳である。
クイズ番組である脳が柔らかければ誰でも解ける!と言ったようなものはほぼ解けない。
一護はパッと出てくるのに私はずっと唸るんだ。
「壱華姉?悠仁兄来てたけど…あともう一人の人誰?」
「さぁ、私も初対面なんだよね。
でも悠仁の知り合いっぽいからとりあえず?」
「…壱華姉、気をつけなよ?
なんか、壱華姉って危機感薄いって言うかさぁ」
「えー」
「壱華姉お母さんに似て可愛いんだから」
ムッとした表情で私を心配してくれる夏梨。
夏梨は遊子のようにオープンに甘えてこれるような子ではない。
所謂ツンデレだ。ツン弱めの。
身内だからなのかは分からないけれども。
私はそんな夏梨の頭を撫でる。
「ありがとう夏梨。でもモーマンタイ!」
「それ悠仁兄のよく言うやつ」
「はは、なんとなくね。それじゃ私部屋行くよ。
父さんなんかあったら手伝ってあげてね」
「分かってるよ。大丈夫。
何かあればいつも通り遊子と補佐でもやってる」
「さっすがぁ!」
私の家族は、本当に頼りになる子ばかり。
お盆にお茶を3つ乗せて階段をのぼり、自室へと入った。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「いーえ。こっちこそ突然来ちゃってごめんね?
悠仁がどうしてもって言うからさ」
「はぁ……それで、悠仁。どうしたの?急に」
「あ…うん。今から話すことなんだけど、正直俺もまだよくわかってねーからアレなんだけどさ…
でも全部本当のことなんだ」
「そっか。じゃあ話してごらん、お姉さんに」
昔から、こうやって悠仁が何かを話したそうにしたら"何か言いたいことあるの?なんでも話してごらん。お姉さんにね"と言ったら悠仁はニパッと笑って色んなことを話した。
だから今回もそうなると思いきや、悠仁はその言葉を聞いて、心底安心したような笑みを浮かべた。
その様子からして、悠仁がこれから話すことは相当突拍子のない事なんだろうと、予想は着いた。
「えーっと?じゃあつまり?
そこら辺にいる得体の知れない生き物は"呪霊"って生き物で、人の感情とかから生まれる"呪い"で?
それのウルトラやべぇ階級の呪いの王とやらの人の指を悠仁は飲み込んだと」
「うん」
「で、悠仁は普通ならば死んでたけど、奇跡的にそのウルトラやべぇ呪いの王様の器であったがために今生きてて、それと融合している…ってことでオケ?」
「いやー凄いね。うん。
壱華ちゃんよく一回で理解したよ。
僕が壱華ちゃんの立場なら無理。
何言ってんの頭イカレてんじゃねって思うね!」
………五条悟さんとやらはなんだかえらく陽気だけど………なんだろうか?
「ちなみに、さっきさ言わなかったんだけど実は僕はそういう呪霊を倒すための学校の先生をしてるんだ〜」
「…そんな学校があるんですね。
でも………ふぅん、なるほどね」
「壱華姉ちゃん…?」
腕を組んで何かに納得した私に二人は首を傾げ、五条さんは何に納得したの?と尋ねてきた。
「悠仁が突拍子もない事だけど真実であろうことを話してくれたので、私も吐いちゃいますね」
「「え?」」
「悠仁が嘘をついていないだろう今の話。私がこれから話すこともまた、フィクションは何一つありません」
私は、死神の力について話した。
もちろん、前世の記憶があるとか何とか、そういうのは全部省いている。
そこの話までするとややこしくてたまらない。
だからただ自分には生まれつきその呪霊とやらが見えていたことや、それを滅することの出来るパワーがあったこと。
それを私は霊力、つまり霊圧と呼び、私は他者のそれを感じ取ることも得意であると話す。
故に、昨日の夜に突然大きな霊圧が現れたことや、悠仁から現在悠仁以外の霊圧を感じとっており疑問に思っていたのだと。
「え、え!?壱華姉ちゃんそんな力あったの!?」
「うん。だから私昔から空手だとか合気道だ剣道だって戦うための術を学んでたんだよ」
「そうなの!?俺てっきりおじさんぶっ飛ばすためだと思ってた!!」
「あのヒゲはいつでもぶっ飛ばしてるし、なんなら一護は今日ヒゲの顔面踏みつけてたけど」
「ハード!!!!」
はたから見たらハードかもしれないが、我が家では毎日のように起こってる出来事だ。
「…うんうん、やっぱり君、こっち側だよね?」
「え?」
「は?」
ニッコリ、と効果音が付くように笑った五条さん。
そして、彼はぽかんとする私たちなど気にせず、言った。
「ねぇ壱華ちゃん。君も呪術高専に来ないかい?」
突然の勧誘に私は再びぽかんとしてしまった。
そして、聞いたことの無い、全く耳馴染みのない学校名。
察するに、そこが五条さんが教鞭をとっている場所なんだろう。
「えーっと……」
「正直ね、君をさっき一目見たときから"この子見えてるな〜"ってのは分かってたし、呪力が凄まじいのは言わずもがな」
「呪力???」
「多分君が名付けた霊圧に当たるものだよ」
「ああ…」
彼らのいる界隈ではそう呼ぶのか。
「そのスゴい呪力を独学でそれを使いこなしてるなんて、正直天才としかいいようがないね。
おったまげ〜って感じ」
「……つまり???」
「是非君もその力を使って、僕たちと一緒に戦お〜!ってこと」
なんだろう。
さっきからこの人のノリが、下駄帽子(前世の一護命名)と被る。
まだあっちの方が胡散臭さはだいぶ勝っているけど。
「………………」
「え、ちょ、何言ってんの!?壱華姉ちゃんが戦う!?」
「うん」
私はただ、ポリポリと頬をかいた。
これはまた、突然な流れだ。
「呪力を使って呪霊と戦う人たちのことを"呪術師"って言うんだけど、呪術師って万年人手不足なわけ。だから才能があるのならこちら側に来て欲しいんだよね〜。ホント人足りなくて困ってんの」
「はぁ………」
まぁ、そうだろうな、と私は思った。
なんせ、要はその呪術師とやらはチャドや石田、織姫たちのような人たちを集めて呪霊と戦っているようなものだ。
もっとわかりやすく言うならば、前の世界で言う滅却師の組織と考えればいい。
「私は別にいいんですけどね」
「え?いいの?」
「え????」
誘ってきておいて、マジで?と顔に書いている五条さんと今なんて言った?という顔の悠仁。
私は元々死神代行だったんだ、戦うことに関しては専売特許のようなものだし、何故か前世から受け継いだ死神の力を人助けに使えるのならば私は見返りなど構わず使うとも。
「はい。いいですよ。ただ、そうなると私転校っていうことになりますよね?」
「そうだね」
「そうなると父親に許可を貰わないとダメです」
「勿論、それはね。
許可をいただけるよう僕も一緒に説明してもいいし」
「そうして貰えると助かります」
うちの父は、一見アホに見えるがとてもしっかりとした人だ。
強い芯を持っているし、譲ってはならないところは頑として譲らない。
「それじゃあ、壱華ちゃんも来るって話でけってーい!ってことは次は壱華パパさんの説得だね」
「展開が早くて俺ついてけてないんだけど…」
「大丈夫だよ悠仁」
私が一緒に行くかどうかって話だから、と私は悠仁の頭を撫でた。
「父なんですけど、あと10分くらいで一旦休憩入るはずなのでそれまで少し待ってて貰えますか?」
「うん、いいよ」
まぁ、今日の感じからして今日はそんなには混んでいないようだから時間は取れるだろう。
「な、なぁ壱華姉ちゃん。
壱華姉ちゃんのその力ってのは、どんなのなんだ?
昨日あったやつはなんか、犬とかよくわかんねーのとか出てたけど」
「私のは色々だよ。
基本はこれを使う戦闘スタイルだけど」
そう言ってクローゼットから取り出したのは、ひと振りの刀。
まさかそんなものが入っていたとは思わなかった悠仁は刀!!?と驚く。
これは、今は私の斬魄刀だがかつては浅打だった刀。
これを見つけたのは、本当にたまたまだった。
家族で買い物に出かけた際、骨董市が開かれており、なんとなくみんなでそこへ足を向けたのだ。
するとそこで無名の刀として浅打が売られていた。
私はさすがに2度見したが、今ここでこれを手にしなければ斬魄刀はいつまでも手に入らないことはわかっていたので、父へこれでもかと言うほどオネダリした。
駄々を捏ねたとも言う。
私や一護は長男長女ということもありあまりこれが欲しいなどということは言わず、妹たちの欲しいものを優先させる。
だからこそ、父は初めてとも言えるオネダリにひどく喜んだがねだられてるものがものなだけあって喜びたい気持ちとなんでこれなんだ、という気持ちで複雑な顔をしていた。
まぁ、結果的には買ってくれたのだが。
だから父にはたくさん感謝を伝えたし、家の事だってそれ以来以前よりもやるようにしている。
「それ、呪具だね」
「じゅぐ???」
「呪いの籠った道具、って感じかな」
「ああ、これ私の霊圧籠ってますからね。
私は斬魄刀って呼んでます。
この斬魄刀は私の霊圧とかまぁ、色んな実験して私だけのすごい力を発揮できるよう改造したんです」
我ながら、めちゃくちゃな説明だ。
ただ浅打から斬魄刀になったのを説明したかったんだが、冒頭で説明する気が失せた。
難しすぎる、流石に。
「術式を込めてるって感じなのかな?」
「私の言う言葉とそちらの界隈の言葉とが全然違うので頭の中めちゃくちゃになりますね」
「うん、僕も結構何が何だかわからなくなってきてる」
「初っ端から俺ついていけてねーけど」
死神界隈の用語と呪術師とやらの界隈用語。
頭の中こんがらがってきた。
「他にも霊圧…あー、呪力?を応用した鬼道っていうものとか、いろいろですね」
「………へぇ。凄い。これは凄いとしか言えない。
全部一人でやったなんて信じ難いね」
その言葉にドキリとする。
そりゃそうだ、私が考えたわけじゃないし、考えたのはウン百年前の死神だ。
「それじゃ、そろそろ壱華パパさん休憩時間かな?」
「あ…じゃあちょっと失礼しますね」
「はいはーい!」
私は立ち上がり、バタバタと一階へ降りていった。
「…………ねぇ悠仁」
「ん?」
「壱華ちゃんって、昔からああなの?」
「?うん。昔からすげー面倒見のいい人」
「呪霊も、昔から見えてた?」
「呪霊が見えてたのかは知らねーけど、壱華姉ちゃんは子供の頃からオバケが見える、触れる、喋れる、憑かれるの超霊力ある人だよ。昔、誰もいないのに誰かと話してたりしてたし」
「…ふぅん」
誰と話してるの?と聞けば、いつも姉ちゃんは笑って秘密、と答えていた。
昔はよくわからなかったのもあって気にはしていなかったが、あの人が見える人だと気づいたのは小学高学年の頃。
「多分、物心着く前から見えてたんだろうねぇ。
それを誰にも言わず隠し続けてまともに育ったっていうのはすごい精神力だよ」
「…正直、見えるようになって考えてみると俺もそう思う。子供の頃だったら普通は泣くだろ」
「ほんとだよね」
それでも誰にもそれを悟らせず、隠し続けられたのだから、とんでもない人物だ。
「…今年の一年生は結構な大物揃いかもねぇ」
そう言って、五条は壱華が戻ってくるのをただのんびりと待っていた。
五条さん。
ん!はーい?
父が人もいないからって今から休院にして話聞くそうです。
え?そこまでしてもらって大丈夫なの?
まぁ、父がいいって言ってるんで大丈夫かと。
おじさんに会えんの?俺もいい?挨拶したい!
もちろん、悠仁もおいで。