07



あの日、2年生の先輩たちと顔合わせをした。
男勝りな禪院先輩という女性の先輩、おにぎりの具材しか喋らない狗巻先輩、そしてパンダのパンダ先輩。
パンダ先輩については何も考えないことにした。



「ったく。1年の中じゃ壱華が一番肉弾戦は強いみてぇだな」

「はぁ」

「……壱華お前、なんでそんな強いんだよ」

「え?あー………さぁ?」

「顔も良くて強いとかムカつく」

「野薔薇…褒めてくれるのは嬉しいけどさ…」



ちなみに、釘崎さんという呼び方から野薔薇と呼び捨てにできるようになった。ちょっとした進歩。
私の下でムスッとしている恵は相変わらずだ。

そんな私たちは現在、禪院先輩による接近戦訓練を行っていた。



あれから、私は案外ケロリとしていた。
その理由としては、死んだとされていた悠仁の霊圧を微かに感じたからだった。
それを知るのは私だけ。

悠仁の死が信じられず、その霊圧を探していたらこの学校の地下から微かに悠仁の霊圧を感じた。
だが悠仁の霊圧を周りから押さえつけるような不思議な空間があった。
多分だが、あれは結界か、何か。

結界の中に悠仁を隠しているようなものだと、すぐに察した。
悠仁が生きているかもしれないという希望に、私の心は軽くなったのだ。
でも次に浮かぶのはなぜ?という疑問。
なぜ悠仁を隠す必要があるのか。
しかしこれについてはきっと五条先生が一枚噛んでるはず。
ならば、五条先生に任せるのが良いと判断し、私は目の前のことに集中するようになったのだ。



「壱華、お前より強いんじゃないか?恵」

「……………」

「でも私、呪霊についてはど素人ですから、恵の方が総合的には強いに決まってますよ」

「あっそ」



それに、私は元から戦闘の経験値はある。
前世のではあるが。



「喉乾いたな。…よし、お前ら買ってこい」

「え」

「ほら、行った行った!」



金は後で精算な。ということでなぜか私たち1年生全員がパシられることに。
しかし先輩の言うことだ。
逆らうのもあれかと思い、私たちは自動販売機のある場所を目指した。




















ガコンッと飲み物が落ちた音がし、野薔薇がそれを取り出す。



「自販機もうちょい増やしてくんないかしら」

「無理だろ。入れる業者も限られてるしな」

「そうなんだね」

「はい。壱華持ってて」

「ん」



野薔薇からそれを貰うと、ザッと誰かが現れた。
それに私たちは顔を上げ、その人物を確認する。



「?」



そこに居たのは、男女。
ゴツイ男性の人と、禪院先輩に似た女性だ。



「なんで東京こっちにいるんですか、禪院先輩」

「あっ、やっぱり?雰囲気近いわよね。姉妹?」

「ああ、姉妹。だから似てるのか」

「嫌だなぁ伏黒君。それじゃあ真希と区別がつかないわ。真衣って呼んで」

「コイツらが乙骨と三年の代打…ね」



………結局、誰なのかはよく分からないのだけど。
真衣という人が禪院先輩の姉妹なのはわかったけど。

てか、男の人の方にガン見されすぎて怖いんだが。



「アナタ達が心配で学園長について来ちゃった。
同級生が死んだんでしょう?辛かった?
それともそうでもなかった?」



その言葉に、私はピクリと反応してしまった。



「…何が言いたいんですか?
あいつと家族みたいなやつだったのもいるんで、あんま言わないで欲しいんですが」

「恵…」

「いいのよ、言いづらいことってあるわよね。
代わりに言ってあげる」



真衣という人は、それはそれは楽しそうに笑う。



「"器"なんて聞こえはいいけど、要は半分呪いの化け物でしょ。そんな穢らわしい人外が隣で不躾に"呪術師"名乗って、虫酸が走っていたのよね?」



───死んでせいせいしたんじゃない?



その言葉を聞き、斬魄刀の柄に伸びた手を恵が素早く掴んだ。
睨みつけるように恵を見れば、恵もまた彼らを睨みつけていた。



「真衣、どうでもいい話を広げるな。
俺はただコイツらが乙骨の代わりに足りうるのか、それを知りたい。伏黒…とか言ったか」



耐えろ、耐えるんだ。
私が手を出せば、こいつらを殺してしまう。
悠仁を、私の大事な悠仁をバカにした、こいつらを。



「どんな女がタイプだ」

「「「………?」」」



男の方の話は、全く意味がわからなかった。



「返答次第では今ココで半殺しにして、乙骨…
最低でも3年は交流会に引っ張り出す。
因みに俺は身長タッパケツがデカイ女がタイプです」



………さっきから、マジでこの変な男からの視線が嫌なんですが。
さっきはガン見、今度はチラ見。
でも主な視線は恵へ。何、この人。

ていうか、確かに私はそこらの女子よりは背が高いし、胸もケツもでかい自覚はある。
軽いコンプレックスみたいなものだ。
織姫とどうしたら痩せてるように見えるのかと研究してるほどだ、こっちは。



「なんで初対面のアンタと女の趣味を話さないといけないんですか。てか、アンタ壱華のことチラチラ見すぎですけど」

「確かに今のタイプ壱華にドンピシャね。ドンマイ」

「他人事だと思って」

「他人事だし。
それにそうよね。ムッツリにはハードル高いわよ」

「お前は黙ってろ。ただでさえ意味わかんねー状況が余計ややこしくなる」

「じゃあ野薔薇の代わりに私が喋る」

「そういう意味じゃねぇ」



柄に伸びていた手を握ったままだった恵はゆっくりと私の手を離し、ジャージの襟元を直すとまた変な男を見た。



「京都三年、東堂葵。自己紹介終わり。
これでお友達だな。早く答えろ、男でもいいぞ」

「……友達ってこんな早くなれるものだったかな」

「違うだろ」



ただ名乗っただけだろう、今のは。
そんな簡単に友達になれるなら友達いない人なんか出てこないと思うんだけど。



「性癖にはソイツの全てが反映される。
女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん。
俺はつまらん男が大嫌いだ。
正直、そこの壱華という女子はタイプドンピシャで好きだ」

「…………………」

「「壱華、顔」」



顔が歪んでしまったのは、仕方が無いと思う。



「交流会は血湧き肉踊る俺の魂の独壇場。
最後の交流会で退屈なんてさせられたら、何しでかすかわからんからな。
俺なりの優しさだ、今なら半殺しで済む」



京都校の人たちは、人の話をろくに聞かない人たちの集まり何ではないだろうか。
あの人の隣の女といい、この人といい。



「答えろ伏黒。どんな女がタイプだ」

「アレ夏服か?ムカつくけどいいなー」

「なんだコレ大喜利かよ」

「……今ここで聞くことなの、これって」



正直、女よりも男の方のインパクト強くて忘れ去られているが、私は女の方を許したつもりは無い。
先輩とか、どんなのもどうでもいい。
あの女は確実に、シバく。
私の前で悠仁を貶した罰だ。



「別に好みとかありませんよ。その人に揺るがない人間性があれば、それ以上は何も求めません」

「悪くない答えね。
巨乳好きとかぬかしたら私が殺してたわ」

「うるせぇ」

「恵は素敵な感性持ってて私は嬉しい。
そこの変態と違う」

「一緒にすんな」



向こうの女もいい答えだと思ってるらしい。
女には、ウケのいい回答だった。
が、どうやら東堂葵さんとやらには不評だった様子。



「やっぱりだ。退屈だよ、伏黒」



ドガッ



遠いとも近いとも言えない距離があった私たちの間。
しかしその距離を一瞬で詰めた東堂は伏黒を殴り付け、思い切りぶっ飛ばした。



「伏黒!!」

「恵!!」

「あーあ。伏黒君かわいそっ」

「!」

「壱華いいから伏黒んとこ行って!!」

「その子が行っても意味ないでしょ。
…二級呪術師として入学した天才も、一級の東堂先輩相手じゃただの一年生だもん。
あとで慰めてあげよーっと」



野薔薇の背後から抱きつく、真衣とかいう先輩。
明らかに京都校の人たちは私たちを見下している。
野薔薇を信用していないわけではないが、背後を取られている時点で野薔薇にはハンデがあるとみていい。
だからこそ、私は野薔薇を置いては行けなかった。



「似てると思ったけど、全然だわ。
真希さんの方が百倍美人」



野薔薇は、真衣に挑発した。



「寝不足か?毛穴開いてんぞ」

「口の利き方───教えてあげる」



ジャキ、と野薔薇に突きつけられる拳銃。
その時点で、私の堪忍の尾が切れた。



「口の利き方?」

「壱華…?」

「えぇ、是非ともご教授いただきたいですね」

「!きゃああ!!!」



真衣という女の首を掴んだ私は、そのまま地面にたたきつけた。
先程の東堂同様に一瞬で距離を詰めたからか、反応できなかった女はあっさりと野薔薇を離し、私が首を絞めている手を掴んだ。



「ぁ、ぐ」

「さっきから聞いてれば…
悠仁を貶した挙句、恵や野薔薇のことまで見下して…
先輩ヅラしないで頂けます?」

「ゆっ、じ…?」

「ああ、あなたが先ほど死んでせいせいしたと嘲笑った宿儺の"器"の子ですよ」



苦しそうに顔を歪める真衣。



「はっ…"器"、なんて、いなっ、い、方がいいにっ、決ま、ってる!」

「……………」

「そんなに…ぐっ…
"器"が好き、なら…アンタも死にな!!!!」



眉間に添えられた拳銃。
そして、引かれる引き金。
だが壱華はそれ以上に早く反応し、銃弾を避けると掴む首で体ごと持ち上げ近くの柱へ投げ飛ばした。



「ガハッッッ」

「弱いですね、先輩。
先輩ってだけであんなでかいツラしてたんですか?」

「ゲホッ、ゲホゲホッ」

「そこまでだ、壱華」

「!…禪院先輩」

「真希でいいって」



スタスタと、真衣に近づく私の襟を掴んで歩みを停めさせたのは、彼女の姉妹であり、私たちの直属の先輩の禪院先輩。



「ケホッ…
あら、落ちこぼれすぎて気づかなかったわ。真希」

「おちこぼれはお互い様だろ。オマエだって物に呪力込めるばっかりで術式もクソもねぇじゃねぇか」

「呪力がないよりマシよ。上ばかり見てると、首が痛くなるからたまにはこうした下を見ないとね」

「あー、やめやめ。底辺同士でみっともねぇ」



禪院先輩はため息を着くと私を見て、また女を見る。



「オマエじゃ壱華に勝てるわけねぇだろ。
そもそも壱華は伏黒にも勝ってんだぞ。
術式抜きでだけどな」

「!」

「最近こっち側に入ったばっかだと思って舐めてるからこうなるんだよ、バーカ」



私のことを、禪院先輩がそこまで評価してくれているとは思わず、少し驚いた。
まだ先輩たちとは数日しか経っていないのに。

そんなことを話しているとあの変態男が帰ってきた。



「帰るぞ真衣」

「なっ、そんな、伏黒は…」

「大丈夫だ。パンダたちがついてる」



ああ、向こうも先輩たちが来てくれたらしい。



「楽しんでるようだな」

「冗談!!私はこれからなんですけど」

「ダメだ。オマエと違って俺にはまだ東京に大事な用があるんだよ。高田ちゃんの個握がな!!」



バーンッと出されたのは恐らく個別握手会の、チケットだろう。



「乗り換えミスってもし会場にたどり着けなかったら、俺は何しでかすかわからんぞ。着いてこい真衣。
いつもの京都外れるとはな…」

「もうっ、勝手な人!!」

「そうだ。そこの、確か、壱華だったな」

「えっ」

「俺は東堂葵。京都校三年だ」



私の目の前までやってきた東堂葵さんは、私を見下ろして突然名乗った。
いや、それさっきも聞いた……



「え、えと……東京校一年の、黒崎 壱華です…」

「黒崎 壱華。よし覚えた。アドレスを交換しないか?」



もうなにがなんだかわからない、と混乱していると後ろから私に飛びついてきた野薔薇が東堂葵さんに中指を立てた。



「ふざけんな!!
誰が壱華のアドレス教えるか!!!!」

「お前には聞いていない。タイプじゃないからな」

「タイプじゃなくて心底嬉しいわこっちは!!!!」

「……時間ないんじゃないんですか」

「あ…そうだな。仕方ない。
なら交流会の時に東京に来るからその時教えてくれ」

「一生教える時は来ないわよバーカッ!!!!!」

「野薔薇……」



立ち去った京都校二人に、私はため息が自然と出た。
あの女と言い、東堂葵さんとやらといい、キャラが濃い。
女に対しては単なる怒りだけだが。



「とりあえず、こっちも戻るか。
ここで勝っても負けても貧乏くじだ。
交流会でボコボコにすんぞ」



禪院先輩の言うことが正しいため、私たちは元の場所へ戻る帰路についた。
私はあの真衣とかいう女が言った言葉に対する怒りが収まらず、むしゃくしゃしていると、野薔薇が禪院先輩にあることを尋ねた。



「………ねぇ真希さん。
さっきの本当なの?呪力がないって」



…確かに、あの女、そんなこと言ってた気がする。



「本当だよ。
だからこの眼鏡がねぇと呪いも見えねぇ。
私が扱うのは『呪具』初めから呪いが篭ってるんだ。
お前らみたいに自分の呪力を流してどうこうしてるわけじゃねぇよ」

「じゃあなんで呪術師なんか…」

「嫌がらせだよ。
見下された私が大物術師になってみろ。
家の連中どんな面すっかな。楽しみだ」



ニヤリと笑った、禪院先輩はとても楽しそうだった。



「私は真希さんのこと尊敬してますよっ」

「あっそ」

「………先輩、交流会ってやっぱ殺すのはダメ??」

「それだけはNGだ」

「チッ」

「あの女、壱華の地雷踏み抜いたものね〜」



交流会で、二度とは向かう気にすらならないほど、ボコボコにしてやるよあの女……























……イラつきが収まらない。どうしよう。

んじゃ、呪術抜きでやるか?

え、いいんですか?

いいよ。ただしこっちは呪具あり、壱華はなし。

え、めっちゃハンデ。

実践じゃそういう時もあるぞ。

そうだけどそうじゃないでしょ、先輩。


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