06



目が覚めると、そこに居たのは私を取り囲むようにする恵、釘崎さん、そして五条先生だった。



「………みんな」

「壱華!!」

「あんたねぇ!!」

「よかった〜!目ぇ覚めた!硝子が治してから3日も気を失ったままだったからどうしたもんかと思ってたんだよ」



聞きなれない人の名前が出たが、私は3日も気を失っていたんだ。



「……悠仁、は?」



この中に居ない、私の大切な子。
私の兄のように優しくて、可愛い、弟のような子。
あの子は、なんでここにいない?

私がそう質問すると、みんなは私から目を逸らした。
それは私が想像する最悪の結果を言っているようなもので、私はがばりと起き上がり、もう一度彼らに問う。



「…ねぇ。悠仁はどこ?」



やっぱり、誰も答えない。



「五条先生、悠仁は、あの子はどこ」

「………悠仁は死んだよ」



五条先生の言葉に、私は息が止まった気がした。



「宿儺に心臓とられて…
恵を襲う前に自我を戻したんだそうだ。
たとえ自分が死ぬことになろうとね」



分かっていた。
分かっていた。
悠仁が、その選択をすることは、分かっていた。
悠仁は一護と似ているから。
だからこそ。
悠仁がどんな選択をするのか分かっていたんだ。
でもそれを、受け入れられるわけがない。



「悠仁が、死んだ…?」



どうして。なぜ。
ああ、もう、どうして。



「……この世は優しい人ばかり傷つく世界だ」



私はただ、膝を折ってそこに顔を付け泣くことしか出来なかった。
そんな私を五条先生は背中を撫で、恵や釘崎さんはなんとも言えない表情で見ている。



「生きててくれてありがとう、壱華」

「ッ?」

「恵から聞いたよ。壱華も宿儺と戦ったんだろ?
………あいつは壱華を殺すと宣言してた。
だけど、君は今ここで生きてる。
あの両面宿儺相手に戦って生き残れたんだ。
それはすごいことだよ」



ましてや、一年生が。と五条先生は背を撫でていたのを頭へと移し、ポンポンと手を置いた。



「だから、生きててくれてありがとう」

「っ、ぅ、五条先生ぇ〜〜〜〜〜〜〜」

「うん。おいで!僕が慰めてあげる!」



撫でられた拍子に顔をあげれば、優しい顔でそんなことを言われてしまえばただでさえ緩んでいる涙腺がさらに緩む。
優しい顔と言っても目元を隠してるからどんな顔なのかはイマイチ伝わってこないが雰囲気が、優しかった。
だから私はつい温もりを求めて先生に片手を伸ばすと、先生は大きな体で私を包んでくれた。
それも、なぜかややテンション高めに。



「いや、それ慰めるテンションじゃねぇだろ」

「セクハラね、セクハラ」



男の人に、ましてや家族以外にこうして抱きしめられたのは悠仁以来だ。
しかも悠仁は私より背が低く、しかも抱きしめるのだって軽いもの。
いわゆるハグ、というやつだ。
五条先生は私よりも背が高くて体も細いが筋肉質。
こんな包み込まれるような感覚は、久しぶりだった。



「泣きたい時はうんと泣いちゃえばいいからね。壱華」

「う゛〜」

「不謹慎だけど、泣いてる壱華可愛いね」

「一体どうやって育てばこんなクズに育つのよ」

「俺に言われても俺が育てたわけじゃない」

「僕の真後ろでそんなに堂々と悪口言わなくても」




















ひとしきり泣いて、頭が痛くなった頃にやっと涙が引いた。



「大丈夫?」

「……大丈夫じゃない」

「だよね。でもまぁいつまでもこれじゃ話進まないからとりあえず今の状況説明するんだけどさ」

「はい」

「今度行われる京都にある姉妹校との交流会に1年生も参加することになりました〜」

「………??????」



意味がわからず、私は首を傾げればそれを見た恵が理由を説明してくれた。
毎年行われるという交流会だが、通常は3年生と2年生がやるものなんだとか。

しかし今回3年生が出れなくなったこともあり人手が足りないということで私たち1年生がその枠に入ることになったんだとか。
その為、現在恵や釘崎さんはそれに向けた練習を行っている。



「そうなんだ…その交流会はいつなんです?」

「んまー、ざっくり1ヶ月後くらい?
1ヶ月は切ってるけどだいたいそんなもん」

「わかりました。私も出ます」

「だってよー、恵」

「はい。あと禪院先輩たちに連絡はしときます。
むこうもこっちで1人意識戻ってないのがいるってのは話してたんですぐ話はつくはずですし」



五条先生や恵、釘崎さんは交流会についてのことをワイワイと話し出す。
私は、のんびりと窓から外を見た。



…………悠仁が死んだなんて、信じられない。
死んだというのなら無駄なことはわかってる。
分かっているけれど、やって見なきゃ分からない。



「あとで、探ってみよう」



今は疲れた。
少し休みたい。
明日にでも、少し探ってみよう。
集中して、悠仁の霊圧を探そう。



「壱華?聞いてる?」

「聞いてないです」

「いっそ清々しいね!」

「もういっかいいってくれますか?」

「交流会なんだけど、2日間対戦は行われるのね。
団体戦と個人戦を2日間に分けて。
でも何をするのかは当日になるまで分からない。
で、一応共通ルールとしては相手殺さなければなんでもOK!」

「…そんなざっくりしたルールなんですか?」



殺さなければなんでもOKって……



「うん。そんな感じ。
向こうも真面目に殺す勢いで来ると思うから」

「………穏やかじゃない」

「毎年そんなもんよ〜。
とりあえず2年の先輩達に後で会いに行っておいで」

「…はい」



ぽんぽん、とまた私の頭を撫でる五条先生。
私はただ、そのままそれを受け入れた。



「それじゃあ僕らはそろそろ行こうか」

「はい」

「さっさと支度して来なさいよね」

「うん。わかった」



彼らは出ていき、一気に静かになった部屋で私はため息をついた。



「………」



両面宿儺。あれが、両面宿儺。
まだ2本か3本しか取り込んでいないのに、あの強さ。



「呪いの王と言われるだけ、あるわ」



あの時点で余裕で破面たち同等。
しかもナンバーを貰ってるヤツらと。多分。
全ての指が戻った時、アレはどれほどの力を持つというのか。

それを考えるだけで恐ろしいものだ。



「おはよう、黒崎 壱華」

「!…あ、え、…」



いつの間にかそこに居たのは、美人な女性。



「家入硝子だよ。
あんたの身体治療したやつっていえば分かる?」

「!」



さっき、確かに五条先生は"硝子"と言った。
この人が…



「治療、ありがとうございました」

「いいよ。で、まぁ怪我は完治してるからそこに荷物まとめて退院ってところだね。特に体に不調はないだろ?」

「はい」



私はベッドから降りて、荷物をまとめる。
多分釘崎さんあたりが持ってきてくれたのかな。
そう願いたいけど。
だって他、みんな男だし。



「ここに運ばれてきた時すごい怪我だったけど、呼吸器官だけは正常だったのはなんで?」

「私の情報、どれくらいご存知で?」

「志波?とかいう大昔の術式使ってる子」

「……術式ではないんですけど……
まぁ、それの力のひとつと言ったところです。
回道という治療の力と言いますか。
それを意識朦朧とする中、何とか呼吸だけはと思って必死に治しただけです」

「へぇ」



カバンを持って、私は家入さんに向き直り、頭を深々と下げた。



「お世話になりました」

「あ、おお」

「失礼します」



パタン…と静かに戸を閉めて出た。



「………珍しく性格は普通ないい子」



家入硝子は、壱華が出たあとについそう呟いたという。






















さてと…それじゃ恵に電話しよ。

あ、もしもし?今どこにいる?準備出来たらそっち行く。


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