「そういえばこの前さぁ、可愛いっていう言葉について調べてみたんだよね」


前々からずっと読みたいと思っていた本をやっと見つけ、鼻歌を歌ってしまいそうなくらいご機嫌にわたしだけの世界を作り上げその本に没頭してる最中。糞チャラ男がそのわたしだけの世界を打ち破り、突然そんなことを切り出した。またこいつはおかしなことを言い出したな。無意識の内に、はあ?とでも言いたげな表情をしていたのか、あいつはわたしを見遣りながら「まあ、話くらいは聞いてよ」とそんな甘ったれたことを言う。誰が待ってやると思ってる。本を読むときほど邪魔されることが嫌いなわたしの至福のときを邪魔した罪は重い。この男もそれを知っての行動なのだからタチが悪い。問答無用で切り掛かれば、ひらりとあまり焦った風もなく避けられた。こいつはどこまでもわたしの神経を逆なでることに関して天賦の才能があるらしい。

そしてまだ了承していないのにも関わらず、糞チャラ男はつらつらと言葉を並び立てはじめる。

いや〜、実はさぁ。最近どうもある人物に対して可愛い、という感想を抱くことがよくあってさ。その相手というのが旅団の中にいたものだから、これは可笑しいと思って可愛いという言葉について調べてみたんだ。そしたらある本に「可愛いという感想は自分よりも弱く、また自分を厭わせない。つまり、思い通りに出来る対象に抱き易い」って書いてあったんだよね。具体的な例を挙げるなら、人形やぬいぐるみ、それから赤ちゃんや小動物だね。

糞チャラ男が話している隙にも、わたしは容赦なくナイフや脚、時には目についた物を活用して攻撃を続ける。しかしそのどれもこの男を傷つけるには至らず、最後には無駄に終わった。死ね。死ね。死ね。呪いにでもかからないかと、心の中でそう繰り返し呟くけれど、飄々とした態度は一度も崩れない。苛立ちが最高潮に達する。一番使い慣れたジャックナイフを右手に、背後から回り込み、背中へひと突きしてやろうと刃の切っ先を振り上げた。ところが、瞬く間にあいつの姿は消え、状況を理解できないままに視界が反転した。頭に激痛が走る。硬い地面にたたき付けられたことで息がつまり、無様に噎せる羽目になった。足を掬われ転がされた、と把握した途端に顔が陰る。はるか高みから、こちらをにこにこと嬉しそうに微笑みながら見下ろす忌ま忌ましい男。

地面に転がった状態で、頭上にあるしたり顔へしぶしぶ口を開く。

「つまりは、何が言いたいの」

「お前ってとても可愛いよ」

「くたばれ、くそ」



だから嫌いなのよ





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