愛情、とは人間が抱く感情の中で一番不思議なものだと思う。どうして自分とは何もかも違う別の個体を慈しもうと思えるのか。謎。言ってみれば私自身の生涯をかけた研究テーマでもあったりする。

「…面白いことを考えてるんだね」

「今、絶対に馬鹿にしたでしょ。言っとくけど私真剣なんだからね。」

「いやー、べつに?」

綺麗な微笑を浮かべて、まさか、なんて流し目でこちらを見つめる彼に口車で勝とうなんて無茶な話だった。こいつはどうも女の扱い…いや他人の扱いが病的に上手い。そんな彼に何だか腹が立ってそっぽを向いた。

「…ねぇ」

「拗ねてませんから」

「ならこっち向きなよ」

「嫌だ」

「あれー、もしかして怒ってる?」

「………」

「せっかくの休みで一緒に居られるのに顔が見られないなんて」

寂しいなぁ。わざとらしくぽつりと天井に向かって彼が溶かした言葉はゆるりゆるりと煙になって私の体を理性を侵食していく。

「あっ、やっとこっち向いた」

「……」

何だよ、ほっとけよ、バカ。口に出せないもやもやとした言葉は背筋を下ってやがて沈静化する。体に回された彼の腕によって。温かい体温がまるで意地っ張りな私をよしよしと慰めているようで、むかむかして首筋に思いっきりしがみついてやったら彼は嬉しそうに笑った。調子に乗って首を絞める勢いでさらにぎゅうぎゅうとくっついた。彼は目を細めて微笑む。何よ、こいつ。

「何だか今日はすごく積極的で嬉しいんだけど」

「ほざけ、ばーか」

「相変わらず素直じゃないなぁ。…あ、あとさっきの話の続き。俺なりに考えてみたんだけどさ」

好きとかそういうのっていちいち考えるのって意味ないよね。だって好きなものは好きで嫌いなものは嫌い。それはどう頑張っても自分の意志じゃあなかなか変えられないわけだし。多分それっていわゆる本能の一つなんじゃないかな。そうしたら急にふとしたことで人を好きになるとか、昨日まで好きだった人を嫌いになるとか、そういった不思議な現象にも説明がつくし。つまりは、さ。

「俺が君を好きなのも君が俺を好きなのも、生まれながらの本能なんだよ」

人の弁論を論題に借りたくせに、何偉そうに語っちゃってんの、むかつく。けれど耳元でそんなあまく囁かれたら私の意地はもちろん今さらそんなことを突っつく意地悪な気さえも溶かされてしまうわけで。畜生、他の人間はもちろんのこと。私の扱いは人一倍カリスマ並に上手いからやってられない。こうして今日も結局いいように言いくるめられて、こいつの勝ちで終わるのだ。分かったらその得意気な顔やめてよね。どんなに他の女の子がキャーキャー騒いでも私はかっこいいなんてこれっぽっちも思ってないんだから。嗚呼、悔しい!!



勝ち目ゼロ
thanx:孤独童話




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