(※)設定資料集のネタバレあり



「あー、ピアス増えてる!」

それは私が好物であるオムライスを食している時だった。スプーンで半熟卵に包まれているチキンライスを口の中に放り込む。効果音を付けるとするならもぐもぐだろうか。とにかく私は気持ち良く、とまでは言えなくともそこそこ良い気分で食事をしていた時だ。ふとソファーに座っている男、周防尊を見れば耳には今まで1つしかなかったピアスが2つに増えていて驚きを隠せず思わずいつもより声が大きくなってしまった。そんな私を尊は睨み付けているような目で見てくるが彼は睨み付けているつもりはないのだ。それは私も知っているから別に怖いとは思わない。

「はぁ」

「なんでそこで溜め息つくかなー。ねぇ、いつ開けたの?」

「…さぁな」

「えー、教えてくれてもいいじゃん」

ケチだなぁ、とまた私はオムライスを口へと運ぶ。半熟卵とチキンライス、そしてケチャップがたっぷりと絡んで実に濃厚な味が広がった。 自分で作ったとはいえ中々成功していると思う。出雲さんにはまだ敵わないが…。私は今日どうしてもオムライスが食べたかった。出雲さんじゃない、自分が作ったオムライスを!だからわざわざスー パーに行って、お金を払って食材を買ってきた。ケチャップと鶏肉と卵とニンジンとタマネギ。誰がどう見ても今からオムライスを作るんです。オムライス以外作る気はありません、とアピールをした様な買い物だったと思う。調味料はバーにあるのを借りればいいか。なんて軽い感じだが出雲さんに勝手にバーのキッチンを使ったことがバレたらいろいろめんどくさい。このキッチンは大切に使うんやで?なんせこのキッチンはなぁ!と長々と説明されるのがすごくめんどくさい。………じゃなくて、なんだっけ。そうだ。ピアス。

「もしかしてさ、誰か…死んだの?」

「…何故そう思う」

「何でって…………その1つ目のピアスは多々良くんが死んでからついてたから。出雲さんから聞いたよ。そのピアスには多々良くんの血が入ってるんだってね。」

だから2つ目のピアスもそうなのかなって。だんだんと彼の方を見るのが気まずくなったのでオムライスに視線を変えてみる。オムライスは既に冷めてしまい、ご飯がパサつきつつある。スプーンでほぐせば半熟卵がねっちょりと動いてなんだか生きた化け物みたいでちょっと気持ち悪いな、などと思ってしまった。

「どうだろうな」

「またそうやってはぐらかす…」

この空間に流れる空気はあまり宜しくない。何に対して宜しくないかと聞かれれば、少なくとも食事の席には不釣り合いな雰囲気だと表現すれば妥当なところだろう。もしかしたら私は聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。または言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。どうしよう。私はどうしていいかわからず頭の中であーだこーだと格闘。とりあえず彼が座っているソファーの上へ腰を下ろすことにした。

「ねぇねぇ」

「あ?」

「これ、食べる?」

此方をちらりと見やり「それ冷めてんだろ」と言うが構わずにスプーンでオムライスをすくう。熱々のオムライスももちろん美味しいけど、冷めてちょっとパサついたにオムライスもまた美味しいんだからね。なにより私が作ったんだから。

「お前が作ったってのが一番心配だ」

「ひどーい!私だって料理くらいできるもん!」

頬を膨らませて唇まで突き出してみる。渋々といった風に口を開け咀嚼。どう? と首を傾げてみるも返事がない。不味かったのだろうか。

「……不味くはない」

「でしょー?尊は味には煩いからそう言われると私も素直に嬉しい」

にこりと笑えば彼も笑い私の頭を撫でてくれる、これがいつもの私たちだ。でも今の彼は頭を撫でるどころか笑うことすらしなかった。やっぱり実は不味かったのだろうか?いや、でも彼に限ってお世辞なんて言わないだろう。なにより彼の頭の辞書にお世辞という言葉など存在するのか、気になるとこはそっちだ。いつもと様子がおかしい彼の頬に手を伸ばす、が。私の手が透けていることに気づき伸ばす手が止まる。あ、れ、?なんだこれ?

「もうそんな時間か」

時間?そう呟けば彼は一度目を閉じてはぁと息を吐いてから「このピアスの中の血が誰のか、知りたいか?」と私の伸ばしかけて止まったままの手を掴んだ。

「教えてくれるの?」

微かに開いた唇に柔らかい感触。少ししたら苦い味が広がって、あぁ彼がいつも吸ってる煙草の味だ。何故かその味もこうしてキスをするのもすごく懐かしく感じた。何故だろう、思考を巡らせていると

「死んだお前のだよ」

耳元で囁かれ、私の思考はそこで停止した。



もうそろそろ目覚めなきゃいけないね
thanx:ミシェル




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