図書室で繰り広げられる甘い雰囲気は罠だ。見つめあう瞳もキザな言葉も、本気にはならない花宮の気まぐれと得意技。毎回違う女の子とのろのろ本棚の奥へと消えていく。その後、満足そうに図書室を出ていく女の子を横目で見る度に、髪の毛をかきあげてだるそうな顔をした花宮が本棚の奥からわたしの近くに来る度に、変な気持ちがぐちゃぐちゃになってわたしの胸の奥に溢れ出す。

「今日も盗み聞きしてたのかよ」

「図書委員の仕事してるだけなんだけど」

「そのわりに進んでなさそうだな?」

「返却したい本棚付近に誰かさんがいたもので」

生徒が返却した本を積み上げて抱え、正しい本棚に片付けていく。図書委員の放課後の仕事だ。手に残った本は、さっきまで花宮と女の子がいた付近の本棚に戻すものばかり。そこの本棚に向かえば、なんだか淀んだ空気が存在しているようで息苦しい。 本当は、実際に変わったところはないけれど、それでもそう思ってしまうのは、わたしの後ろをついてくる花宮のシャツが未だに肌蹴ているからだ。本の番号を確認しながら片付けていると、そんなの適当に直せばいいだろ。そう言って花宮がわたしの手から本を奪い、開いているスペースに無造作に本を突っ込んだ。ちょっと、適当に片付けて先生に怒られるのはわたしなんだけど。

「ねえ、女の子なら誰でもいいの」

「誘ってんのか?」

「まぁなんとも都合のいい耳をしてるんだね」

「別にお前に手出さねぇのは、特別とか他の女と違うとかそういうのじゃねぇからな」

花宮がわたしの太股を撫でながら言う。ぞくり。綺麗な指が這う、這う、這う。反応を見せればその口元は嬉しそうに上がる。 ほら、なんだかんだでお前だって他の女と一緒だろ?じりじりと机に追いやられて、だけど手は止まらないままで。俺のこと、好きなんだろ。耳元でそう囁かれたかと思えば、机に押し倒されていた。花宮に見下ろされている。机に腰掛けた花宮は無駄に色っぽかった。ぞくり。あぁまただ。花宮に触られると、感情が高ぶる。触られるのは初めてだ。

「…お前、可愛いよ」

「…思ってないくせに」

「折角褒めてんだから素直に受け取れ」

「皆に同じこと言ってるんでしょ」

花宮はため息をついて、わたしのリボンを解く。シュルリ。花宮は図書室でこの音を何度聞いてきたんだろう。されるがまま黙っていると、花宮が片手でブラウスのボタンをはずしにかかる。本当に手慣れている。慣れすぎていて気持ち悪いくらいだ。 いつ誰が来るかもわからないこの場所で、 本当に笑っちまうよな。花宮が笑っていない目で言う。こんな俺が成績優秀なんだから。前の中間考査も、次の期末考査も、俺が上位にいるんだから。

「学校でこんなことしてる俺が」

「先生にも手出してるの?」

「乱暴にされてぇのか」

「可愛い冗談じゃない」

「冗談言う暇があるなら抵抗しろよ。叫べば助けが来るかもしれねぇぜ?」

「…抵抗しないよ」

わたし、花宮のこと好きだから。花宮の目を見て言えば、ボタンに触れている手が一瞬止まる。わざわざ助けを呼ばなくたって、今ここでわたしが本当に抵抗すれば、花宮はきっとすぐに解放してくれる。誰にだって本気じゃないから、無理強いさせるなんてことは絶対にない。だからこそわたしは抵抗しない。抵抗してしまえば、花宮とわたしはもうこんな雰囲気にはなれない から。やっぱり女は全部一緒なんだな。呟いて止まっていた手が動き出す。そうだね、わたしも一緒だね。本気にならない人の特別でありたいなんて思うのは、夢の見すぎだ。なれるわけがないのだから、もう踏み入れるしかないじゃない。それでもいい。この一瞬だけでも、花宮に見てもらえるのなら。

「さっき可愛いって言っただろ」

「…ん」

「可愛いって言ったのは、今まででお前だけなんだけど」

期待させるような言葉も上手い。わたしは何も返さない。だって、割り切っている皆と違う部分がある。わたしは本気で花宮が好きだ。返してしまえば、本当に皆と一緒になってしまう。わたしの唇が花宮のそれに塞がれる瞬間、花宮の顔が辛そうに歪んだ。理由はわからない。



そうして息を止めた海に溺れていく
thanx:ミシェル




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