小説 | ナノ
また一人、自分と同じところに降り立ったのを感じた。
生と死の狭間、生まれはずだった自分や、はたまたこれから死に至る者が通る場所。そこに新たに来たのは白髪の少年だった。
「こんにちは」
「……初め……まして」
笑って挨拶してやると、少年は目を見開いてそう答えた。驚いているのは何故自分がここに来たのか分かっていないからだろう。
いきなり光でも闇でもなく生きている者はいない場に放りださられたらまあだれもが驚くだろう。
「ここは……どこですか?」
さっきの言葉に続けるように少年は尋ねた。純粋そうな瞳からは驚きと困惑と怯えが見て取れた。
「ここはね、」
『生と死の狭間だよ。君はね、これから死に至るんだよ』少し意地悪くそう答えようとしたときだった。
<生きて!!生きなさいメル!!!戻ってくるのよ!!>
女の悲痛な叫びが空間の青みがかかってる方から聞こえてきた。
「お母さん……?」
少年も聞こえたのかはっとしたように声の聞こえた方を見ている。
<この子を生んだのは私……罪深い私です。ですが主よ、この子には罪はないのです。だからメルを返してください…
声の主は少年の母親らしい。死んでしまいそうな息子を自分に抱かれそうになっている愛しい息子を取り戻そうと必死に叫んでいるのだろう。
その様子は――
――生まれておいでなさい、イヴェール!!
あの時に似ている。
「お母さんは……ずるいや」
「?」
自分のわずかな呟きは、少年には聞こえていなかったようだ。声の方から振り向ききょとんとした顔をしている。
(聞こえてなくて、良かった)
そう胸をなでおろし、口を開いた。
「戻りな、君のいた世界に――物語に」
「えっ」
少年にとって意外な言葉だったのか、最初のときのような顔に戻っている。
「君はまだ死ぬわけにはいかないだろ?ママンも待っているようだし、タナトスに渡すにはもったいないや」
「はあ……」
「だからね、君を元の物語に戻す代わりにお母さんを大切してね」
少年は青の色の中に消えていく。母の待つ方へと。
ああ、僕がそちらにいくときはくるのだろうか。愛しい母に会えるのだろうか。
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