小説 | ナノ
「桜の下には死体が埋まってるらしいね」
そういうと香鈴――秀麗は驚いたような顔をして、二胡を弾く手を止めた。
「どうしたの?ニ胡をとめるほど驚くことだったかい?」
「あなたからそんな一般人が知ってるような話を聞くとは思わなかったわ」
意外だった返答に、今度はこちらが目を丸くしてしまう。
「本当に失礼だねぇ、君は」
「まあいいわ。で、その話がどうしたの?」
秀麗はまた二胡に目線を戻し、再度音楽を奏でだす。もう自分の話など話半分で聞くと決め込んだようだ。
普通の女供はころころと愛想笑いをして話を流すだろうに、だからこそこの少女のその素直な反応は心地よかった。
「香鈴は信じるかい?」
「信じないけど……私は桜が死を呼ぶと思ってたときはあるわ」
「?……私はそんな話は聞いたことないけど?」
「私の主観の話よ」
そう尋ねると少女は今度から手を離さずに質問に答えた。
「あなたには関係なかったかもしれないけど……数年前に王家で跡継ぎ争いがあったでしょ?」
「そんなこともあったね」
「そのときうちの家にあった桜の木をね、皆が根元から葉から何から何まで食べちゃったの。でもそれでも足りなくて皆死んでいったのよ?それで桜の下には食べても死んじゃった人と、木のところまで来たけど力尽きて死んじゃった人、その死体が折り重なってたの」
ゆっくりと語る少女の目には自分など映っていなく、そのときの光景のみが映し出されているようだった。
「それでね見たときにね、あぁこの桜が人を殺してるんじゃないかって、そう思ったの」
意外にも重かったその話に少し目を見開いていると、少女はそれに気づいたのか再度二胡をとめて悲しそうに笑った。
「話が重かったわね」
「いいや、私が話を促したようなものだからね。そんな悲しい顔をしないでくれ香鈴」
言いながら頬に触れると少女は顔真っ赤にして後ずさった。くっくっくとのどで笑うと悲しそうな顔からいっぺんして頬を膨らまし、からかわいないでください!と大きな声で怒られた。
(桜が死を呼ぶ…か)
もしそうだったらこの可憐な少女が、自分にとっての桜だったらいいなと思う。
彼女の根元で死ねたら、それは本望だから。
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