夢のあとさき
43

一夜明けて私たちはオゼットへ向かったが、そこで明らかになったのは何とも悲惨な事実だった。
プレセアは村の人から疎まれ、しかも彼女の家には遺体が放置されているというひどいありさまだった。リフィルはエクスフィアの寄生によってプレセアが正しく認識できていないのだと推測していたが、なんてむごいのだろう。
ドワーフのもとへ共に向かおうとしたが、プレセアは仕事だといって同行を拒否した。その仕事を頼んだ男も怪しい人物だったが追及している暇はない。先にドワーフを訪ねてプレセアの要の紋の修理について聞いてこようということになった。
コレットの要の紋の件も気になるので一緒に聞こうと考えていたのだったが、くだんのドワーフ、アルテスタはプレセアと関わることを激しく拒否した。一体どういうことなのだろう。幸いといっていいのか、アルテスタと共に暮らしているらしい少女――この少女も雰囲気が独特で、変わっていた――が抑制鉱石を持ってくるといいとアドバイスをしてくれたが、謎は深まるばかりだ。
「抑制鉱石ってどこにあるの?」
コレットの疑問にリーガルが答える。
「アルタミラからユミルの森へ向けて斜めに続く一連の鉱山地帯で採れる……と聞いた。もしもプレセアに要の紋を作ってやるのなら協力させてほしい。私はおまえたちを鉱山に案内できる」
しかも案内までしてくれるらしい。鉱山の関係者なのだろうか?
「あんた、プレセアとどういう関係なんだ」
「関係は……ない」
「そのわりにはずいぶんと気にしているようね」
リフィルの言葉ももっともだ。だがロイドはそれを深く追求せずにリーガルの同行を受け入れた。私も彼は危険な人物ではないと思う。

「ダイクおじさんとアルテスタさんって、どっちがいい職人なのかなあ?」
道中にジーニアスがそんなことを呟く。ロイドはアルテスタの態度が気に入らなかったらしくそっけなく答えた。
「知るかよ、そんなこと」
「ボクが見たところ、技術的には、アルテスタさんの方が上だと思うな」
「ジーニアスよく見てるね。確かにそうだと私も思う」
ちらりとしか見られなかったが、ジーニアスの言っていることは正しい。テセアラとシルヴァラントのドワーフは継承してきた技術が違うのだろうか。とにかく腕はアルテスタの方が上だろう。
「姉さん!職人に大事なのは技術じゃなくて心だ。親父だったら、困ってる人を放っておくもんか」
ロイドは私とジーニアスの言葉に気分を害したのか声を荒げて言った。
「フフ、ムキになってる。やっぱり親子だねぇ」
「ジーニアス。ロイドの言ってることは間違ってないよ」
からかうような口調のジーニアスを一応たしなめておいた。職人に大事なのは技術じゃなくて心――というのは、ある一定以上の技術を持った職人にしか言えないことではある。だが、ドワーフには大切な誓いがあるのだ。
「ドワーフの誓い、第二番。困っている人を見たら必ず力を貸そう――なんでこんなのがあるか分かる?」
「ええ?意味があるの?」
「意味があるからあるんだよ。職人としての心構えというのは大切なことだ。技術を持って驕ってはいけない。技術代として高値をふっかけることもできるだろう。でも、そうやってお金を持った誰かに肩入れをして争いになる原因になってしまったらどう思う?」
資金は大事だ。でも、優れた技術は争いを生みかねない。職人は責任を持って自分を律しなければならないのだ。まあ、テセアラにも同じ誓いがあるかは分からないけど。
「それは、すごく……悲しいし、おろかなことだと思う」
「うん。だからドワーフの誓いなんてもので職人の心構えを説いてるんだ。エンジェルス計画なんかに加担するなんて、本当はそんなおろかな行為なんだろうね」
「そうそう!」
「でもロイド、アルテスタさんが何の理由もなくエンジェルス計画に加わったとは限らないからね」
あのドワーフばかりを責めてはいけないとも思う。元々はエンジェルス計画を作り上げた人物がいるはずだし、アルテスタは脅されていたのかもしれない。人にはさまざまな事情があるのだ。私も彼には怒りを覚えるが、ロイドがむくれているのを見るとこうやって諭す余裕は持てていた。
「後悔してる、ってタバサも言ってたでしょう。許されないことをしたのだろうけど、悔いる心はあの人にもあるんだよ」
「そうか……。そうだな」
「どうにかして説得できればいいんだけどね」
私たちの持てる技術では厳しいので、本当にどうにかしたいところだ。そう思っているとジーニアスは私を見上げてにこっと微笑んだ。
「レティもやっぱり親子だね!」
「ありがと。褒め言葉として受け取っておくよ」


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