夢のあとさき
35

プロネーマは手強かったが、撃破することができた。だがロイドは続けてユアンにも剣を向ける。
「丁度いい!ユアン、きさまともここで決着をつけてやる!」
「ま、待って!ロイド!」
「姉さんは下がってろ!」
「く、くくく……ロイドよ。レティシアが何と引き換えに私と取引をしたか教えてやろうか」
ユアンの言葉に焦ってしまう。こればかりはロイドに聞かせるわけにはいかない。
「ユアン!約束は守る、だから……っ」
「お前の身の安全だ、ロイド」
「……は」
ロイドが目を丸くしてこちらを見る。徐々にその瞳が剣呑な光を帯びてきて、私は思わず後ずさりそうになった。
「ふざけるんじゃねえ!姉さんをそんな言葉で脅したのか!」
「言い出したのはレティシアからだ。誤解しないでもらおう」
「姉さん!なんで、なんで……!そんな取引したんだよ!それで俺が喜ぶと思ったのか!姉さんを犠牲にして……何も知らずに、守られてたらいいと思ったのかよ!」
ものすごい剣幕で怒鳴られて私は唇を噛んだ。だから知られたくなかったのだ。ユアンは一体なんのつもりなのだろう。
「……そうだよ。危険な旅についていくロイドを守れればよかった。たった一人の弟を守れれば私はそれでよかったんだ」
「俺にとってだってたった一人の姉さんだ!くそ……っ、なんで……!」
ロイドは改めてユアンに剣を向ける。それを止める気力はなかった。崩れ落ちてしまいそうだった。ユアンに向かって疾走し、剣を振りかぶるロイド。だがその刃が届くことはなかった。
二人目の乱入者はクラトスだった。
「退け、ユアン。ユグドラシルさまが呼んでいる」
「くっ……。神子を連れていくのか?」
「いや……一時捨て置く。……例の疾患だ」
静かにクラトスが言う。それでユアンも撤退を決めたようだった。
「……そうか。ロイド、勝負は預けたぞ」
そう言ってユアンは背中の翼で飛び立っていった。やっぱりユアンも天使だったんだな、とそれをぼんやり見送りながら思う。
クラトスはその場に残ってロイドに色々と諭していた。いわく、テセアラにまで来てどうするのか。コレットの心が戻った今、次の一歩を踏み出す必要がある。結局このままではどん詰まりなのだ。歪んだ世界のままでは、コレットが元に戻ったとしてなにも解決していない。
「くそっ、どうにもならないのか!?この歪んだ世界を作ったのはユグドラシルなんだろ!」
「ユグドラシルさまにとっては歪んでなどいない。どうにかしたければ自分で頭を使え。……おまえは、もうまちがえないのだろう?」
その言葉に目を瞠ってしまった。クラトスは、どういうつもりなんだろう。……答えはすぐそこにあるはずだ。
「ああ!やってやる!互いの世界のマナを吸収しあうなんておろかな仕組みは、俺が変えさせてやる!」
「フ……。せいぜい頑張ることだな」
クラトスはそう言って去っていく。ちらりとこちらを見て、一瞬だけ目が合ったような気がした。
……気のせいか。
私が大いなる実りの話をしたときは、クラトスは反対した。あれはコレットが最後の封印まで辿り着かなくてはならない事情が彼にあったからだろう。だけど今はどうだろう。ロイドのように、せいぜい頑張れとでも言われるんだろうか。
ユアンは自分の目的をマーテル復活の阻止と言っていた。だがマナの守護塔で会ったときは歪んだ世界を変えるのだと言っていた。レネゲードとしてクルシスに逆らっているユアン。クルシスのトップで、この世界を作ったというユグドラシル。ユグドラシルに従うクラトス。
――なにが正しいのか。そればかり考えてしまう。
なんだか視界が定まらない。倒れないように踏ん張ってコレットとの再会を喜び合うみんなを眺めた。ロイドもとりあえずはコレットの方に気が行ってるみたいだし……。
「レティ?あなた、顔色が悪いわよ」
「……平気だよ。次は、メルトキオに行くんだよね」
「ええ。本当に大丈夫?さっきの話……」
「ユアンの言っていたことは本当だよ。あとで、ちゃんと……ロイドとも話す」
ロイドと目が合う。ロイドもそう考えてるみたいだった。


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