夢のあとさき
01

私の友人には「マナの神子」と呼ばれる少女がいる。

神託の村、イセリア。そこに住むマナの血族には何十年かに一度神子が生まれる。
神子はクルシスの輝石を生まれながらに持っているそうだ。私の友人であるコレットもそうだったらしい。
その瞬間から神子の運命は定まる。十六の誕生日に神託が下り、神子は世界再生の旅に出る。世界再生の旅とは、普段は眠っている女神マーテルを起こすために封印を解放して回り救いの塔を目指す旅だ。そうすることでひとびとを虐げるハーフエルフの集団――ディザイアンを封印することができる。

けれど、それはどこかおかしくないか。

たった一人の、十六歳の少女にすべてを託すなんておかしい。神子として生まれたからという理由でコレット一人に重責がかかるなんて許せない。
それに、女神マーテルが普段眠っているというのだっておかしいのだ。コレットに尋ねたら「人々に試練を与えるためだよ」って言っていたけど、起きていられない理由とはなんだろう。世界がこんなに貧しく苦しんでいるのに、結局神子が世界再生を成功させるか否かだけが世界の命運を左右しているのだ。
たった一人にゆだねられるせいで、神子の旅が失敗に終わっている長い間、ずっと人々は苦しめられている。神子以外の誰も立ち上がろうとしない。立ち上がれないのだ、ディザイアンの恐怖に支配され疲弊している人たちにそんな力はない。
昔は大樹カーラーンがマナの供給源だったというのに、「勇者ミトスがマナのもとになった」「女神マーテルがマナを分け与えてくれる」だなんておかしい。女神は神ではなく、ただのマナの管理者なのではないか。
大樹がなく、新しいマナが生まれない今マーテルはどこからマナを分け与えてくれるのだろう?

私は不思議だった。この世界の成り立ちはおかしいと思っていた。みんなが当たり前のように受け入れているのに、自分ひとりそうやって考えることも奇妙だった。
コレットが神子として旅立つまで時間がない。私は、神子コレットがたとえ世界再生に成功したとしても最後には天使になり、人として死んでしまうことを知っていた。
大切な友人を見殺しにすることなどできるものか。
そう思った私は、コレットが旅立つ半年前――旅に出ることにした。

「ロイド、親父さんへ。
 しばらく旅に出ます。探さないでください。
 コレットが旅立つまでには戻ってきます。
 心配しないでね。
 レティ

 追伸
 ロイド、コレットのことを守ってあげて。」


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