夢のあとさき
28

私たちが運び込まれたのは、あのトリエットのディザイアンの基地だった。いや、ディザイアンではない。彼らはレネゲードというらしい。
私はどこか納得していた。助けてくれたのはボータで、つまりユアンの命令ということになる。ユアンは少なくともただのディザイアンではなかったということだ。
説明を受けて、ロイドが目覚めるまで待つ。私たちも混乱していたが、目覚めたロイドはもっと混乱していた。
ショックが大きいのだろう。コレットは結局心を失ったままで、クラトスには裏切られた。ディザイアンとクルシスは同じ組織だった。
この話を聞いて冷静でいられるはずがなかった。
「……レティ?」
目の前のやりとりをぼうっと眺めているとジーニアスに心配そうな声をかけられる。はっと我に返って眉を下げたジーニアスに視線を遣った。
「大丈夫?怪我がまだ痛い、とか……」
「平気だよ。ありがとう、ジーニアス」
「うん……」
ジーニアスもコレットのことで心を痛めているだろうに、年下の子に気遣わせてしまって申し訳なく思う。でも、やはりなんだか目の前がふわふわするようだった。頭が痛いわけじゃないけど……なんだろう、この感覚。
そうしているとディザイアン、もといレネゲードが部屋に入ってくる。
「お目覚めですか?それでしたら隣の部屋へどうぞ。我々のリーダーが、お待ちです」
促されて私たちは移動した。そこで待っていたのは予想通りユアンとボータだ。
「ようやく目覚めたか」
ぼんやりしながら交わされる言葉を聞く。レネゲードはクルシスに対抗する地下組織であり、クルシスはマーテル教とディザイアンを操り統べる組織だという。推測通りだ。
クルシスはマーテルの器を欲している。そのためにマナの血族に神託を下し婚姻を管理し、器となる神子を作り上げている。
そしてシルヴァラントとテセアラ、二つの世界を作ったのがあのユグドラシルという男らしい。
「我々の目的はマーテル復活の阻止。そのためには、マーテルの器となる神子が邪魔だったのだ」
「もっとも……神子は完全天使と化してしまった。今の神子は防衛本能に基づき敵を殺戮する兵器のようなもの。下手に手出しはできん。しかしマーテル復活の阻止という我々の目的を果たすために最も重要なものは、既に我らが手中にある。もう神子など……必要ない!」
気づけば私たちはユアンの部下たちに囲まれていた。ユアンが私を見る。
「約束を果たしてもらうぞ、レティシア・アーヴィング」
「……」
「ね、姉さん!?約束ってなんだよ!」
そうか、今が協力するときなのか。私は一歩踏み出そうとするが、それは叶わずにその場に崩れ落ちていた。
「レティ!」
「姉さん!くそ、どういうことだ!姉さんに何をした!何をさせるつもりなんだ!」
「きさまが知る必要はない。レティシアを連れていけ!」
「ろ、ロイド……いいから……」
「よくなんてあるもんか!」
ユアンがこちらに近づいてくる。ロイドは私をかばうようにユアンを蹴りつけた。
「……くっ」
「ユアンさま!」
「いかん!ハイマでの傷が開いたか!」
「……くっ、クラトスめ。どこまでも私の邪魔をする!」
どうやらユアンは負傷していたらしい。私の力の入らない体をロイドが抱え上げる。
「ハイマでの傷だと?まさか、あの時クラトスを襲ったのは……」
ロイドのつぶやきが聞こえてきた。すぐにしいなに急かされてロイドが走り出す。揺られるのを感じながら私の意識はだんだんと闇に落ちていった。


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