夢のあとさき番外編
王城からの招待状-1

※ヴェントヘイム後

きっかけはメルトキオに訪れたことだった。セレスからクルシスの輝石を受け取った後、ゼロスの屋敷で休んでいたときに王城から呼び出しがあったのだ。
王城に向かうと国王じきじきに話をされたのはヒルダ姫が誘拐されたということだった。おそらく教皇の仕業だろうということも。そこで国王ははた迷惑なことにゼロスと姫を交換するという場にゼロスを向かわせ囮としてそこで犯人を捕らえることを提案した。
正直腹が立ったが、ゼロスは反対しなかったので私たちは仕方なくヒルダ姫を救出に向かい、交換の場であるグランテセアラブリッジではヒルダ姫が偽物――ケイトであることを見抜き、そして本物の姫がいるガオラキアの森へと急いだ。そして姫を救出し今度こそ教皇に引導を渡すという捕物劇を終えたのだが。
「え?祝賀会?」
「そ。あのとき国王が言ってたろ?ロイドくんたちの衣装も準備するからって」
「……言ってたっけ」
再びメルトキオのゼロスの屋敷に足を運んだのがバッドなタイミングだったらしい。私たちは王城の主催の祝賀会だかパーティーだかに呼ばれてしまったのだ。
「パーティーかぁ。楽しみだねえ」
呑気にコレットが言う。私は彼女の手前ため息を飲み込んだ。
「パーティーか。面倒だねえ」
しいなが肩を竦める。私は飲み込んだため息を吐きだすことにした。
「そうだね……」
「ええ?だって、きれいなお洋服も着れるんでしょう?」
「そうね。王家が準備するというのだからさぞ立派な衣装なのでしょう」
リフィルは意外とノリ気なようだ。もしかして合法的に城に入れるからとか……いやいや、さすがのリフィルでもパーティー中に書庫に行くようなことはしないか。しないよね?
「パーティーですか。どんなものでしょう?」
プレセアは首を傾げていた。さあ、と私は思わずつぶやいた。本当に一体どんなものなんだか。
ゼロスの屋敷に衣装が届いていないというロイドは王城に向かい、残された私たちはゼロスの家の使用人にドレスやらを着るのを手伝ってもらうことになった。貴族であるゼロスやリーガルは慣れた様子だったが、どこかそわそわしているジーニアスと別れて女性用の着替え部屋に案内される。
そこからは散々だった。まず風呂に入れられ、一人で入れると言っているのに身体中を磨かれて、上がってからはよく分からない匂いのするオイルを塗りたくられ。おかげで私の癖毛がすこし大人しくなったとは思うのだが、ここまで犠牲を払いたくなんてなかった。
服を着るのも一人で出来ると思っていたが、コルセットというものできつく縛られたり化粧をされたりで確かに自分一人ではどうにもならなかっただろう。髪も結い上げられて頭に飾りをつけられる。綺麗な花だったのでなんだか頭に花を咲かせてるなんて間抜けだなと思ったが、鏡を見るとそうおかしくもなさそうだった。
「……うーん」
「お似合いですよ」
私の担当をしてくれたメイドさんに微笑まれる。しかしどうにも落ち着かない。私だって着飾るのが嫌なわけではない(でも着飾る苦労に辟易してしまう)が、ひらひらの服は心もとなかった。
とはいえいつもの格好で王城に向かうわけにもいかず、私は集合場所の玄関ホールへ向かった。慣れないヒールによろめきそうになるがそこは根性で耐える。あまりうろうろできなさそうだ。
「あっレティ!」
玄関ホールに辿り着いた私を真っ先に呼んだのはジーニアスだった。きっと落ち着かなくてリフィルや私やコレットを来るのを心待ちにしていたのだろう。洒落たジャケットを身にまとったジーニアスは利発そうな外見のおかげか貴族の子どもらしく見えなくもない。
「ジーニアス。似合ってるね」
「レティもきれいだよ」
「ありがとう」
褒められたので頷いておく。いつもの格好よりは女性らしく見えているのだろう。
「女性陣はレティちゃんが一番乗りか!いやー、いいねえそのすらっとしたスタイルが映えるドレス!うんうん、分かってるぅ」
壁にもたれかかっていたゼロスもよく分からない褒め方をしてくれた。普段はそんなにスカートを穿かないので、新鮮ということだろうか。
「ゼロスもそうしてみると高位貴族って感じだね。髪、いつもまとめてた方がいいんじゃない?」
「ええ〜?レティちゃんが言うならそうしよっかなぁ」
全然本気じゃなさそうにゼロスは三つ編みにされた髪を弾いた。しかし、いつもだらしな……だぼっとした服装で肩周りも露出しているゼロスがきちんとした服を着ているのは珍しい。それこそ新鮮だった。
そして視線を移すとリーガルがソファに座っているのが見えた。彼は私と視線が合うと微笑んでこちらに来てくれた。
「よく似合っているな」
「ありがとう、リーガル。リーガルも素敵だよ」
「そうか。あまり珍しい服装ではないのだが」
まあ、元々貴族として活動をしていたリーガルにとっては物珍しくないのだろう。とはいえ私の知っているリーガルはほぼ囚人服姿なので、こうして見ると囚人服のときでも滲んでいた気品が駄々漏れているという感じだ。大人の男性というか、こういうのをダンディというんだっけ?
で。私は玄関ホールにいた最後のひとりに視線を向けた。
「クラトスはどうして着替えてないの?」
「私は元より招待されていないのでな」
「そうか……」
ちょっと期待して損をした気分だが、確かにクラトスは救出劇のときパーティーにいなかった。いつもの服装でたたずんでいるのが逆に目立つ感じだ。
クラトスはこちらをじっと見つめている。というか私が玄関ホールに来たときから視線はだいぶ感じていた。どこかおかしいところがあるのだろうか?
「レティシア」
「うん?」
「露出しすぎなのではないか」
そこがクラトスの気になっていたポイントらしい。確かに首元から肩はむき出しだが、これが流行りだとメイドさんも言っていたしおかしくない程度だと思ったんだけど。
「レティちゃ〜ん、このおっさんの言うことは気にしなくていいんだぜ」
「え?そう?」
「神子……」
どこか苦いものを含んだ声色でクラトスがゼロスに呼びかける。ゼロスは舌を出して肩を竦めた。
「クラトスの流行は古いんだね」
「……!」
ゼロスのほうが今の流行には敏感なのだろう。そういう意味を込めて言うとクラトスはなぜか衝撃を受けた顔をする。え?いや、あたりまえじゃないの?
「っくく、あっはっはっ!時代遅れだってよ天使サマ!」
クラトスの背中を容赦なくバンバンと叩きながらゼロスが涙を流して大笑いしている。困惑してリーガルとジーニアスに助けを求めるとやれやれという顔をされた。なぜだ。


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