柳生との練習試合の終盤


隣のコートに柳と切原、反対の隣にジャッカルと丸井が入っていくのを横目に見る。


「仁王くん…余所見はいけませんね」


ネットを挟んだ向こうのパートナーが目敏く注意してきた


「余所見なんてしとらんぜよ」

「詐欺師ならもう少しバレないようにしたほうがいいのでは?」

「紳士ならうだうだ喋らず試合に集中するのが礼儀ってものじゃろ?」

「……言いますね」


打ち合いながらの会話
真田が聞いていたら文句の一つや二つ飛んできそうだがこのテニスコート内にはその姿がない
だからこそこうも軽口が叩けたのかもしれない

そうやこうやとやってるうちに試合は終わり、休憩するために備え付けのベンチへと移動する。

その横でフェンスに凭れ腕を組みながらAコートとCコートの練習を見ている幸村がお疲れさま、と声を掛けてきた


「幸村、真田がおらんようじゃけど」

「真田は顧問のとこだよ」

「部長はいかんでええんか」

「大丈夫だよ」


何をそんなに断言出来るのか
ボトルのドリンクを飲みながらコートから目を離さない彼を見上げながらそう思う


「さっき余所見してたよね」

「……そうじゃったかの」

「してたね」


ここにも目敏い奴がいた
ちっと心で舌打ちしながらとぼける
といってもコイツは確信をしているので意味がないのだろうが


「あ―――」


いきなり幸村が何かに気付いたように呟いた

彼の目線の先を見ると同時に上からあれは決まったね、と言う言葉が降ってくる


ボールがネットを伝い、手前へと落ちる



――妙技、綱渡り



その技を決めた者はにやりと笑ってから


「天才的ぃ!」


と嬉しそうに笑った



「…………」



(お前さんの笑顔の方が天才的じゃろ…)



なんて思っていると

視線を感じる


その方へ向くと


「やっぱりね」


と、どことなく意地悪そうな笑みを浮かべた魔王様がいらっしゃった


「何がやっぱりなんじゃ?」


そう聞いたら自分の事に関して返ってきそうなので言わない

そのまままたドリンクを飲むと、つまらないと言いたげにため息をつかれた



(相変わらず油断の出来ん奴じゃ)




















あの二人はどうみても両想いだ
だけど面白いくらいに、そのことは当事者達には伝わらない

視線は交わらないのに互いを見ている

そんな事実

なんてもどかしくて、なんて気持ちいいんだろう

これはゲームだ

恋は駆け引きとは言ったものだけどそんな大人びいたものじゃない
純粋にすれ違っている、子供の手探りなゲーム

俺たちは所詮中学生
拙い手で模索しながら互いに距離を詰めていく

傍観者の立場の俺はそのゲームをじっと見守る存在

その枠を越えてどうにかその背を押して…いや突き飛ばして一気に距離を縮めたいけど………やっぱり当事者達に任せてやるのも、また達成感があるものだ

だからもう少し、見守って見ようと思う




―――なんて、くすりと笑う彼がいるだなんて、誰も知る由もなく










(あいつしか見えない)
(あいつしか見てない)

(……ああっ、やっぱりもどかしいな…)

110404




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