昼休み
四時間目はサボっていたので遅れて教室へと入ると、教室の中はすでにお弁当タイムに入っており購買に買い出しや他の場所で食べに行ってる者もいるようで空席もちらほらといた。
ふと目を向けると、丸井の席も空席
鞄もない、と言うことは屋上か
多分購買に寄ったとしてもその後屋上に寄っているだろう
「…俺もいくか」
教室を出て屋上へ続く廊下を歩く
今日は陽射しが柔らかい
昼寝には丁度いい日だろう
重い扉が閉じる
「……プリッ」
丸井の姿はすぐに見つかった
赤い髪が陽に当たり明るく反射していてとても目立っている
壁に凭れ寝ている彼はこの柔らかい陽射しという睡魔にやられたようだ
ゆっくりと近寄ると、彼の前にしゃがみこむ
その赤い髪に手を伸ばし、優しく撫でる
「ん……」
起きたかと思い手を止めると、目は閉じたまま俺の手を追い擦り付けてきた
……何これ、可愛ええ
また撫でるのを再開すると満足したのか気持ち良さそうにこてんと首から力を抜いた
じーっと顔を見つめる
前から男前な性格に反して可愛らしい顔つきをしているとは思っていたけど…こう目を閉じていると女の子にしか見えない
睫毛も長いし…これも女の子のらしく見せる要因の一つだろう
まぁ彼はコンプレックスに思っているようで言うとあからさまに不機嫌になるのだけど
悪いが男子制服で、シャツの袖から覗く腕がテニスのお陰でそれなりに逞しくなかったら男とは思えなかった
でも男とわかっていても……
(こうも無防備じゃと…手を出したくなるのぅ)
さらりと前髪をすく
「んー…」
擽ったそうに一瞬眉を寄せる彼
愛しい
惹き寄せられるように可愛らしい唇に唇を重ねる
「んっ」
ぴくりと体が跳ねる
スッと体を離すと長い睫毛が震えていた
そしてぱちぱちと瞬く
「あ、起きた」
そう呟くと
バチリと目が合う
前に俺がいることには気づいていなかったようで、驚きのために見開かれた目が俺の目を見つめた
「に、お………!?」
なんだかとても心地いい
今あいつの瞳に俺しか映っていない
その事実がとてつもなく心地いい
心にわいた悪戯心
態とらしく微笑み頭を撫でる
「ブンちゃんの寝顔、可愛かったのぅ」
案の定食いつくブン太
「おまっいつからいたんだよ!?」
「20分位前」
「うぇ」
嘘
本当は10分程だ
何となくずっと近くにいたのを示したくて
男に寝顔を見られていたのが恥ずかしいのかどうなのか…項垂れた赤い頭をさっきとは逆の方向に撫でてやる
そして相変わらずのからかいの言葉
「そんな落ち込まんでも、ちゃんと可愛かったぜよ?」
「…………」
そして爆弾投下
「女の子のみたいで」
そして予想通り拳が飛んできた
「くそっ!避けんな!」
「だって痛いのは嫌じゃし……」
すっと避ければ悔しそうな顔
(予想通り動いてくれて面白いのぅ…)
なんて内心笑いながら立ち上がる
「まだなんも食べとらんき、ちょっと購買にいってくるナリ」
「イチゴミルク」
「………」
「奢れ」
「ブンちゃんが可愛くておねだり出来たらよかよ」
「におーくん、イチゴミルク買ってぇ!…ってブンちゃん言うな!」
「最後のが無ければ完璧に合格じゃったのに……」
「まぁ奢れよ」
「……しゃあないのぅ」
「わーい仁王くんやさしー」
なんて腕に抱きついてくる
心臓に悪い…顔にはもちろん出さないが
食べ物関係一つでこんなに喜んだり抱きついたりする彼に、ドギマギしながらも他にもしてるんじゃないかと考えると苛立ちを覚える
相手にもう少し、『いい』反応があればいいのに……
だけどそれを求めることによってこの平穏が崩されるなら……
このままなのが一番いいのかもしれない
だけど変化を望む自分
結局人は無い物ねだりなのだ
110410