「…………」


苛々する。

そう思っている自分の気がついて、苦虫を噛み潰したような気分になる。



最近仁王をみると嬉しい感情が沸くと同時に――切ない、苦い気持ちが胸に広がる。



今仁王は柳生にちょっかいを掛けていてそれに真面目に反論する声が聞こえる。

けらけらと悪戯が成功してはしゃぐ子供のような笑みを覗かせるその表情

でもそれは今柳生に向けられていて。




俺を見てよ
俺に笑い掛けてよ

俺だけを見てよ
俺だけに笑い掛けてよ



生まれる黒い感情

その正体は…独占欲




「……っ」




独占欲?

何考えてんだよぃ俺


あいつと付き合ってもいないのに独占欲とか…マジありえねぇ

何様のつもりなんだってーの




………そう思っても、この黒い靄は消えない


なんで…なんだ…



「ブン太…?」

「!……ジャッカル」



振り向くとジャッカルが心配そうな顔をして俺を見ていた。

くそっ…最近ぼーっとし過ぎだろ

こんなに近くによられるまで気づかないなんて。
しかも今回が初めてじゃなく、覚えてるだけでも三回はある

実際はそれ以上


「……大丈夫か?」

「ん、ちょっと考え事してた」

「…悩み事でもあるなら言えよ。溜め込むのは悪循環しか生まないぜ」

「…おう」


ジャッカルはいま自分の気持ちをなんとなくわかっているのだろう

だけど深くは問い詰めない

俺としてもそれは助かった
だって悩みは部活仲間の…しかも男が好きということ

何だかんだでコイツ、俺のこと気遣ってくれてるんだな

感動した。

するとがしっと頭を撫で回された


「わっ」

「ていうか、お前がテニス以外で悩むとか気持ち悪いしな!」

「あぁ?!」


苦笑気味にがしがしと髪を掻き回される

だけどそれにつられて俺もいつの間にか笑っていた。


「ちょ、やめろって」


そして軽くジャッカルの腹を殴った

するとパッと撫でるのをやめ、俺の髪を整える


「お前は笑ってるほうが様に合うんだよ。テニス中はそうでもないけど最近注意力散漫になってるからな、気を付けろよ」

「…うっせぇ」


笑いながら言い返す。


「その返し方こそブン太だな。ほら、もう着替えないと休み時間なくなるぞ」

「やっべ!…んじゃまたな!ジャッカル」

「おー」


体育後廊下であったジャッカルに手を振る

あー…なんかちょっと気が楽になった。

ありがとな、ジャッカル





















そして放課後。

(最悪だ………)

何て運が悪いんだ。

このままじゃ部活は遅刻、真田の説教がくることは確実

ちっと小さく舌打ち

(よりによって何で廊下なんだよ…!)

出くわしたのはまさかの告白現場

なんとも情けなく壁に隠れている状態である

(普通校舎裏とか屋上とか…他にもあるだろ!)

確かに人通りの少ない廊下だ。
放課後となれば更に人の足は遠くなる

とは言うもののあくまで人通りが悪いだけ

通る人はいるのだ
自分みたいに

まぁそんなこと言ってたらどこでも告白なんてできなくなるけどよ…!

(どうしたものか…)

このまま告白現場を横切る勇気は自分にはないしそこまで無神経でもない

(って答えは決まってるか…)

音を立てないようその場からゆっくりと背を向ける

(告白…がんばれよな!)

顔が見えない少女に心の中でエールを送った










「仁王くん…」






―――え?



ぴたりと足が止まる


え、今…仁王って……?


どくどくと鼓動が耳につき、告白するのは俺でもないのに、背中に汗が伝う




「私、仁王くんが好き…」




強く後悔した

立ち止まったことも
頑張れなんて思ったことも

頼む、取り消させて

嫌だ…
その続き、言わないで

どくんどくんと嫌な音が自分を硬直させる






「だから、」





言うな………







「付き合ってください!」





精一杯の震える声。

その瞬間、動かなかった足が動いた。


一生懸命音をたてないように…ゆっくりと歩いて

その場所からいくらか離れると


俺の足は屋上へと駆け出した……



















ガシャンと重い扉が開く音

足音は真っ直ぐと近づいてきて


コツンと赤髪の頭を小突いた



「盗み聞きはいかんじゃろ」



苦笑の声色



「別に聞きたくて聞いたわけじゃねぇし…」



床に座り込み俯いたままぶっきらぼうに返す。

すると仁王はどかりと横に座った。


「あー…部活、遅刻じゃのう…。」

「………」


はぁ、とため息をつく仁王

そんな仁王を他所に頭をぐるぐると回るのは…告白の答え


「返事」

「ん?」

「返事したのかよ」

「……気になる?」



なるから聞いてるだろーが

嫌な笑みを浮かべて俺を見ているのが簡単に想像できる

……くそっ
なんで…なんでこんなにコイツの事が好きなんだ俺は

こんなにも俺は仁王のことが好きなのに……



「何でなんだよ…」


「ブン太…?……っ」



不審に思ったのだろう
俺の名を呼んだと思ったらガッと腕を引かれ顔を上げさせられた



「………っ」



その勢いにぼろぼろと伝う滴が床に落ちる

ああ…最悪だ…
隠してたのに


「離せよ!」


捕まれた腕を振り払う

依然、瞳からは涙が流れ続ける


「何なんだよお前…!」


ヤバい…止まらない



「お前を見てると苦しいし辛いし悲しいよ!切ないよ!!」



叫ぶ。
でもこの声はいつかのように空に吸い込まれ響かない



「胸がぎゅっとするし…お前と誰かがいるとすごく苛々する…!こんなにも掻き乱されてる…。」



「そんな俺が嫌だ…もう嫌なんだ。一人嬉しくなったり勝手に落ち込んだり…!」




「なのに…どうしようもなく…どうしても」






いっちゃ、ダメだ










「お前が、好きなんだ」










(足元が崩れ落ちるような)

(後悔と絶望の嵐)

110408




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