抱えている想い

誰かに相談したくて、吐きたくて

でも怖かった
だから心に塞ぎ込んだ

きゅっと唇を結ぶ

その不安を外に誘い出すように頭を撫でられた


「っ……」


その優しさと少しの畏怖に、感情が口から溢れ出す


「俺さ、」


呟いた声は震えていた



「幸村くんのせいで仁王の事を好きになっちゃったじゃねぇか…!」



同時に涙が一筋伝った

男に恋をしてしまったということ

それを今胸に感じていたなら俺は悲しんで涙を流したのかもしれない

でもそんなことより、戸惑いや焦りや混乱が涙となって静かに頬を伝った


「気まずいのはいやだったし仲良くなれたのは感謝してる。けどさ、それ以上の感情をもっちゃったんだよ…!!」


世の中なんて理不尽なんだろう

同性というだけで、恋をすれば異端者となる

今まで常識で、ごく当たり前な世界が一転して俺を苦しめた

安心できる家族も、信頼出来る友人も

自分のこの想いがばれて俺を軽蔑するんじゃないかと考えるだけで立場が一転した


「どうすればいいんだ…どうすればいいの……幸村くん」


彼にすがりつきながら訴えた
握りしめた彼の服に皺が寄る

その手を前より細くしなやかになった指が包んだ


「ブン太……」



優しい声音なのにどこか強さを感じる響き



「『素直になれ』ばいいんだ」


ばっと顔を上げる

その際顎に伝う涙がぽとりと自分の手に落ちた


「そんなこと…!!」

「『素直になれ』」

「………命令ってコト?」

「なるかならないかはお前が決めるといい。だけど……、」






『“好き”になったのは、本当に俺が仕組んでから?』






「っ……!」


大きな動揺が襲った


「そんなに脅えないで。俺はお前の味方だよ」


そう言って彼は優しく手を握った

そこから伝わる温もりは確かで

離れていかない。

そう感じた


「お、れ………」

「ほら、もう帰らないと。どうせお前のことだから、仁王に言わずにここに来たんだろ?早く帰らないとあいつが心配する」

「………うん」


ぽんっと頭を撫でられ、幸村くんが時計を見ながら俺の背中を押した


「大丈夫。」


まだ伝えるかどうかなんて決めていなかったけど、不思議とその言葉だけで安心できた

そして俺は彼に促されるまま部屋を後にした















「嘘、言っちゃったな」



時計を見ながら呟いた










………コンコンッ










「やぁ、いらっしゃい仁王」









ごめんねブン太

彼はまだ家に帰ってないんだよ

























「あれ?」


帰宅するとまだ家には誰もいなかった
柳から呼び出しがあるって言ってたけど絶対こっちのほうが遅いと思ってたのに

靴を脱いで室内にあがるけど、部屋は暗いままで人気もない

鍵がかかったままだしあいつの靴もなかったからやっぱり俺の方が先に帰ったよう

……一体何してんだか

柳にデータ収集でもされてるのか?
…それはないか


「これはこれで好都合」


泣いた後の顔を見られるのは恥ずかしいし

最初は顔を洗うだけにしようかと思っていたけど、もういっそ風呂に入ってしまうことにした

脱衣所の鏡に映った自分を見ると、あまり泣いたつもりはないのに目元が赤くなっている

……結構赤くなってるな…。

この状態で外歩いてたとかマジさっきまで泣いてましたって言ってるようなもんだな

恥ずかしくなりさっさとシャワーを浴びてしまう

服を来て髪を拭きながらリビング的な役割をしている部屋へ移動し、ソファへと座りテレビの方を見ながらぼーっとする

テレビをつける気が起きなくて静かな空間にただ身を委ねた

何も音のない環境は自然と俺に思考を巡らせるよう仕向けてくる


そうなると巡るのは幸村くんの言葉と仁王の事


『素直になれ』って…
確かに想いは伝えた方がいいと思う
だけど今回は……

この関係が壊れてしまうのが……とても怖い

ふとまだ濡れた自分の髪が目にはいり、前に仁王の髪を拭いてやったことを思い出した

………もうあんなことが出来なく、なってしまうんだ

俺があいつを好きだから

好きだからこの関係を壊したくない

“もし言ったとして”なんて想像したら、悲しい結果しか出てこなくて病院で幸村くんにさとされて泣いたせいか涙腺が緩んでいて目がつんと滲みた


せっかく風呂入ったのに…!

泣いたら意味ねーじゃん!!


そう思って考えるのを止めたのに、やるせなさが溢れて涙がこぼれていった


「幸村くんの…馬鹿…っ」


この涙は幸村くんのせいだ…!!








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