自分の中の、この複雑な気持ちに気づいてから……俺は仁王に対して前のように接することが出来なくなっていた

表面上はいつも通りのまま

だけど自分がそう“振る舞って”いるだけ

心の中ではどうしようと戸惑いでいっぱい

抱いていたのは違う感情だけど、まるで少し前の自分に戻ったみたいだ

少し前……それは幸村くんの命令が始まる前

二人になると気まずくなった、あの時

今は、ただ俺だけが気まずいだけなんだろうけど


「ブンちゃん」

「……ん?」


内心ドキリとしながら、声のほうへ振り返る

そこには案の定仁王がいた


「先帰ってくれん?柳に呼び出されちょるんよ」

「ああ、わかった」


一緒に住むようになってから日課となった、二人での登下校

いつの間にか当たり前になっていて、自分の気持ちに狼狽えている自分が今いるこそ
ああ、一緒に住んでるんだった
と、改めて気づいた

やっぱり前に戻ったみたいだ

共同生活を始めたばっかのときはよく帰りになって思っていたから

いつの間にか違和感なく受け入れていたんだ……


「じゃあな」


手を軽く振り合い、仁王と別れる

いつも隣にいた存在が、たった帰り道にいないだけで何故か物足りない気持ちになって

寂しい……なんて、それは断じて違う

そう自分に言い聞かせている自分に気づき驚いた


あーー!
むしゃくしゃする!!

なんで仁王の事考えるとこんな風になるんだ…!

やっぱり俺って仁王の事……!!


(………やっぱり…?)


仁王の事……が、何?


自分への問いかけ
ふとそれに対して気づいた更なる問いかけ

俺は今なんと続けようとしたのか


「……意味わかんねー」


ぽつりと歩道を歩いているところで、立ち止まる

吐き捨てるように呟いた言葉

そう言ってる自分が、本当に一番意味がわからなかった






…ヴー……ヴー……




「わっ」


ポケットに入れていた携帯が震える

驚く必要がないことまでに動揺する自分が悔しい

携帯を取り出し画面を見ると、そこには一件のメール受信

思ったより今回は早かったな、と思いながらそれを開くとやはり送信者は幸村で


「うん……?」


内容はいつものような命令口調ではなかった

ただ


『病院に来て』


という指令とは関係ない幸村個人の用事

……指令が幸村個人の用事、というより暇潰し?、でないとは言えないけどさ


「まぁいっか」


そう適当に済ませ、病院への道へと方向を変えた













何回か来たことあるはず病院は、いつもよりごちゃごちゃしているように見えて戸惑いながら見覚えのある廊下を進んでいった

気持ちは半分迷子


(そう言えば一人できたのは初めてだ)


いつも誰かがいた

レギュラー陣や………大半は仁王が

うわーなんかあいつがいないと幸村くんの病室ひとついけねぇみたいじゃねぇかよ…

そう考えるとなんか嫌で意地でも辿り着いてやると決心する

結局それは杞憂で終わるのだが

幸村の病室のネームプレートを二、三度確認してからノックをして扉を開ける

カチャリと恐る恐る中を覗くとふわりと微笑んだ幸村がこちらを見ていた


「いらっしゃい」


その声と姿を認めてホッと息をつく

中に踏み入れると彼はスッとベッドの横の丸椅子へと手を差し出し座るように促した

肩の荷物を下ろして座ると、幸村はふふっと声を漏らす


「寂しい?」

「……何が?」


分かっている
きっとそれは仁王がいなくて、ということだろう

幸村くんはびっくりするほど勘が鋭いから

だから……油断ならない

早速その勘のよさで俺の心中を察したのか


「そんなに警戒しないで」


と少し悪戯な笑みを含めた

しかしその表情はふっと消え、真剣な光が目に宿る

彼のこの目は好きだけど苦手だ
心の奥を全て見透かされているようで

隠し事なんてさせない、と言われている感覚になる

寧ろ、見つめられている間は隠し事が出来ない


「じゃあその寂しそうな顔の原因は、また別の事?」


その言葉だけじゃきっと他のものには、本当の意味を見出だせないだろう

だけど当事者の俺には分かった

そして彼の目が語っている


『原因は仁王が“いない”ことじゃなくて、仁王関連の“別の事”だろ?』


「っ………」

「今思っていること、全部言ってみな」

「そんなこと…」

「俺のお前を見る目は変わらないよ」

「…………」


確かに恐れている
この気持ちを誰かに教えて、見る目が変わり気持ち悪いと思われることを

でも彼の真剣な眼差しに、その言葉に嘘はないということが伝わってきた








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