あれから二週間ほど経った

幸村から指令は今のところなく、平和な日々を過ごしている

丸井は弟たちの世話を見ているせいか、それとも親の手伝いをしているせいか身の回りの事をするのは慣れているらしく無難な日々を送っていた

自分の家の親はどちらかというと仕事の忙しさから子供を放任していて、そんな親の遺伝子を継いでるせいか姉弟自体も親の固執するようなことはあまりない

それに姉弟みんな俺みたいな考えを持っているためご飯は外食や買ったもので済ます。
家にいる時間はそんなに長くないうえいても自室に籠るのであまり家も汚れないからそんなに頻繁に掃除もしない

流石に衣服はたまっていくので洗濯機くらいは扱えるが……

丸井に手解きを受けある程度は他の事も出来るようにはなった

時間の経過ってすごい

俺にも出来ようになるんだから

何かが出来るようになるとともに、共に過ごしている相手のことを知るようにもなる

良いところも悪いところも

でも以前程悪い印象は持っていない

悪い印象……って言うと語弊がある

なんというか…前は個人的に話したこともなかったし第一印象でコイツ苦手かもと思ったのを引き摺ってただけで。

他にも戸惑いとかそういうものを抱えていたからあまり近づこうとは思わなかった

勿論話してみるとそんなことはなく寧ろ気が合うんじゃないかと思っている


「におーお前もっとちゃんと髪拭けよ。風邪引くぞ」


ふわりと頭にタオルが乗り、ガシガシと痛くない程度に髪を拭かれる

丸井が風呂から上がってきたようだ


「プリッ…」


大人しく拭かれているとよし、完了とタオルが離れていく

振り向くと丸井は笑っていて

……丸井の笑みは好きだ

心が一緒に和やかになるようで

丸井は風呂上がりで喉が渇いているらしく水を飲みにキッチンの方へ歩いていった


兄貴肌で面倒見がよく、女らしい見た目に反して男らしい

何となく知ってはいたがそれは確信へと変わった

多分これは幸村がこう仕組まなかったら変わっていなかったことだろう

そう思うとあいつにも少しくらい感謝しようかなと思える


ヴー…ヴー……


携帯が震える

手に取り画面を見るとメール受信を表示していて

メールを開き本文を確認すると…






「「は?」」






自分と同じ台詞がキッチンの方からも聞こえたので、きっと彼も見たんだろう

送信者が幸村のメールを。

……内容は案の定指令


しかし今回の指令は………


「『互いの好きなところを述べよ』……か」


本文を進めると二週間も時間あったんだからいっぱいあるでしょ?各10個は言うように、と。
多いな


なるほど…だからこんなに間があったのか


にしても男同士でなんちゅーことをさせるつもりじゃ……


ついでに柳が今回実行不実行を判断しないとのこと
当たり前だ
やるにしても他人に聞かれるなんてごめんじゃ

まぁ幸村がこう指令を出した時点で俺達が逃げられるわけもないのに

………随分飼い慣らされてしまったのう…。


「におー」


携帯を片手に丸井がこちらに向かってくる


「幸村ん奴、えげつないの寄越しおったのう」

「これ…するとしたら結構はずいんだけど……」

「……するとしたらじゃなか。幸村が言った時点で決定事項なり」

「……だよな」


テーブルを挟んで苦笑し合う


そして沈黙






「…………」

「…………」

「…………」

「なぁ、」

「ん」

「どっちから言うんだよ……」

「………じゃあ俺から」

「い、いや俺から!」

「そ?」

「やっぱり仁王から」

「なんじゃそりゃ」


早速照れているらしい

好きなところを言い合うなんて恥ずかしいに決まっているのだ
褒め合いなんてただ恥ずかしいだけ…

内心俺も恥ずかしい
それを悟られないように得意のポーカーフェイスを装っている

結局俺からで、一個言ったら丸井も一個言うと交代で言うことになった



「んじゃ…顔」

「……殴っていい?」

「嫌いよりマシじゃろ。女顔ってのもポイントなり」

「てめぇ……」

「ほらブンちゃん」

「………優しいところ」

「え」

「な、なんだよ!!」

「いや別に……」


思ったより真面目なのが返ってきたな……


「ほら次!仁王!」

「ん……見た目に反して男らしいところ」

「顔」

「お前さんもいっちょるし……甘いもの好き」

「意味不明なところ」

「自信家」

「偏食」

「ピヨッ」

「直してやりたくなるからな」

「じゃあ治ったらたら好きなとこ一つ無くなるんか」

「また見つけてやるよ」


ぉお…なんと男らしい


「面倒見がいい」

「意外とさみしがり」

「……身長」

「……おい」

「じゃあ小さいところ」

「余計馬鹿にしてんのか」

「そんなことなかよ」

「………腰」

「ちゃっかり甘えてるところ」

「実はお茶目」

「食べもん食ってる時の顔」

「……色っぽい」

「………風呂上がりがエロい」

「………」

「………なん?」

「敢えてスルーするわ。猫背」

「………次で十個ダニ」

「はずい…」


ぱたぱたと手を振るブン太

確かに何が嬉しくてこんな好きな所を言い合わなければならないのだろう

ベタなバカップルでもあるまいに


「じゃあ仁王ラスト」


最後……か

それを踏まえると浮かぶのはただ一つ










「笑顔」










「……………え」









ぽかんとした顔をするブン太

暫くするとその顔は真っ赤に染まっていって


「すげぇ照れるんだけど」


ちょっとストレート過ぎたか

でも彼の笑顔が好きなのは事実なのだから訂正はしない


「………も」

「ん?」

「俺もお前の笑った顔、好きだぜ」





………………………。


何、この告白同然な感じ

自分も同じ事言ったけど!!


「仁王?」


顔を見られないように後ろに向いたのを不審に思ったのだろう、丸井がこちらに近寄ろうとしてきた

その前にバッと立ち上がり


「これで指令は終わったぜよ。もう寝んしゃい」


と自分の寝床へと向かった


後ろからおやすみ…??という声が聞こえたが聞こえてないフリをした




なんたって





この熱い頬と鼓動の高まりを早く冷ましたかった













(本当に男前な奴じゃ…!!)












次の日多少気まずく二人で幸村に会いに行くとそれを悟られちゃんと実行したんだね、と笑われた



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