朝練に丸井の姿がない

どうしたものかと辺りを見回すと、同じように考えた赤也がジャッカルに丸井の事を聞いていた

ジャッカルは何も聞いてないらしく、寝坊じゃないかと首を傾げている


「みんな、ちゃんとアップしたの?」


落ち着いた声
声の主は見なくても分かるが、聞こえた方へ皆の視線が向く

恐らく来てない丸井に連絡をとるため部室に行っていた幸村がいつものようにジャージを羽織ってコートの入り口に立っていた


「幸村部長!丸井先輩はどうしたんすか?」


レギュラー陣が聞きたかったことを赤也が幸村に駆け寄って問う


「ブン太は弟二人ともが熱を出しちゃったみたいで、病院に連れていくから朝練にはこれないらしい」


その言葉を聞いて皆が気の毒そうに納得する

うちにも弟が一人いるが、そいつが熱を出しただけでも大変だろう

弟思いの丸井のことだから病院が開くまで励ましの言葉を言って看病しているに違いない

俺ならきっと無理だ

姉か親に押し付けているだろう…多分


「ほら、練習始めるよ!俺と真田が打つから二、三に別れてコートに入って」


幸村の言葉に皆が従う
俺もその流れにのり、ラケットを持ってコートに入った

……丸井が来る頃には、きっと三時間目くらいになっているだろう




だが丸井は三時間目が終わってもこなかった

手に持つ携帯…画面には一件のメール

もう何度見たか分からないそれは、朝練が終わり教室に着いたころにはもう来ていたものだ

気がつかなくて一時間目が終わったあとの休み時間に初めて見たのだが、やっぱり三時間目頃に来ないかなと少し期待している自分がいる


『下の弟の熱が上がってやっぱり家離れられねぇ。親もいないし学校休むから、幸村君にも部活いけないって伝えておいてくれ』


幸村に直接連絡すればいいものを俺にするということは、俺が信頼出来るからか

それとも同じクラスだから?

出来たら前者が嬉しい




けど、


「…………」



振り返ればいつもそこにある赤が無いのは、やっぱり寂しかった








当たり前だが、放課後の部活にあの赤はない

探してみても視界に映ることは当然なかった














次の日の朝練にも丸井の姿はなかった

今度は丸井が熱を出してしまったらしい
きっとどちらかの弟からもらってしまったのだろう

また一日彼の姿がないと思うと、どこか残念がっている自分がいた











次の日も丸井はこなかった
風邪を拗らせてしまったらしい

滅多に風邪を引いたりしない丸井に流石に部活のみんなも心配していて、部室で着替えている時は不安そうな顔を隠しきれていなかった

朝練が終わり、着替えて教室に行く

一時間目が始まってもやっぱり丸井の姿はなくて


朝感じた不安がまた沸いてくる


こっそり机のしたで携帯を開きメールを制作する


『大丈夫か?』


意外にも返信はすぐに返ってきた


『大丈夫じゃない』


当たり前か


『薬飲んだ?』

『飲んだ』

『熱高いん?』

『朝測ったら38度あった』

『……しんどそうじゃの。親は?』

『いない。あーだめだマジしんどい』


そりゃそうだ
38度もあるのにメールをさせるのは酷だったか


『じゃあちゃんと寝ときんしゃい』

『……寝れねぇ。もうちょっと相手して』


まさかの返答


『だからってメールしんどいじゃろ?』

『うん。かなり』


……俺にどうしろと


すると返信する間もなく次のメールが来た
開いてみると差出人はおんなじ
送信ミスか?









ガタッ


「すんません、先生。ちょっと体調悪いんで帰ります」

「おい、仁王!?」


驚く教師を無視し鞄を持ってさっさと教室を後にする

途中廊下で幸村にもメールをする
早退したから部活いけん、と

それだけ送信すると携帯を制服のポケットにいれて下駄箱へと急いだ


俺を急かすのは、あの一件のメール






『だから看病しにきて』









(お前さんなしの日々は、退屈じゃから)







だから俺から会いに行ってやる








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