解れの続き?





(な、なんでいるんだ……!?)

バクバクと耳につく鈍い鼓動の音と、胸元の拍動で主張する心臓は異様に自分とは別の臓器であるような印象を与える。
僅かに額に浮く汗と息の速さは階段を駆け上ったせいだけでは決してないだろう。
目の奥に焼き付いているのは、つい先ほどまで家の前で存在していた光景だ。
いまだに白か銀かの髪をしていた彼。それが、今頭を占領しているもの。

冷静でいなくちゃと思った。
だけど私には相手にそう思わせるように振る舞うことしかできなくて、起こせた行動は震える声を隠すということ。
冷静なんて欠片もなくて、何も考えられなかった。
逃げたい、なんで、どうしよう、それだけがぐるぐると頭の中を回っていた。
……結果を言うと私は早々に挨拶だけをして、逃げ出してきたのだ。
すごく不自然な形で。
しまったと思いながら彼の横を通り過ぎて、よかったと安心しながら家の扉を開ける。
なんとか記憶できているのは、こんな断片的なものしかない。

でも、今更冷静になってみたらきっと彼はただ家に帰ってきただけなのだろう。私に会いに来たとか、そんなわけじゃなくて。うん、ていうかそれしかない。
なんでこんなに焦ってんだろう私。
自意識過剰みたいになってるし。恥ずかしい。バカみたい。
もしかしたら彼にもそう思われてるかも。

「はぁ〜…やっちゃったなぁ……」

ここまで取り乱しているのはやっぱり、まだ彼の事が好きだからだろうか。
忘れたとか、諦めたとか。無理やりそう自分の感情を言いくるめて。

でも本当はそうじゃないことをばれてしまうことを恐れたから?
自分を誤魔化していることを直視したくないから?

思い当たることがありすぎる。
どれもそうであるように思えて自分でも正解がわからない。
感情なんて、無意識の領域で起きてしまっているものなのだから、自分ですらその原因なんてわからないものなのだ。
答えを出すことが困難になってきて、頭が痛くなってくる。
思考を振り払うように頬を軽くたたく。

「とりあえず普通に振る舞わないと…」

もしあったときのために、セリフも考えておこう。挨拶して、適当に振り切る言葉を言って、逃げる。
ここまで考えて急に泣きそうになった。

私は彼との出来事をなかったことにして、幸せに暮らしたいのだろうか?




朝は、わざわざ出る前に自室に戻って、いつもは開けているカーテンを閉め切って、その隙間から覗いて安全だということを確認したくらいなのに。
油断したというか、なんというか。
敵は外じゃなくてすでに内にいた。

「「おかえりー」」
「おかえり」
「ただいま――…ぁ…!!?」

いつも通り学校にいって、部活の様子見に行って返って無事帰り道に遭遇しなかったとほっとして家にはいったらだ。
私はある人物を凝視した。口がふさがらない。

「おかえり、ぶん」

弟二人を隣に並べながら、こちらに顔だけを向けていったその人物は。
私はびっくりして、キッチンから出てこようとした母を強引に奥に押し寄せて、声をひそめながら囃し立てた。

「なんで!なんで!!いるの!!?」
「なんでって、あの子たちが雅治君と遊んでもらうってつれてきちゃったから……」

母は申し訳なさそうにいいつつも、どこか嬉しそうにそういった。
そんな母と対称に、私は絶望の淵にいるかのような思いになる。

そうだ。うちの弟二人も彼が大好きだった。
かっこよくて、賢くて、ゲームも得意で。
憧れ的な存在なのだろう。
よく彼の言うことは聞いてたし、ちゃんと守ってたし。
弟二人からのおかえりがなんかいつもと違うなーとか思ったら、言った人物の人数が一人増えていた。しかもそれが、彼だったなんて、昨日に襲ってきた悩みがよみがえるようで、はぁー、ため息を吐きながら頭を抱えた私を、母は不思議そうに見た。

「雅治君にきてほしくないの?」
「いや……そういうわけじゃないけど」

色々と考えるのを拒否してる。
私はキッチンをでて、とりあえず部屋に戻って作戦会議だとリビングを出ようとする。

「おねーちゃん一緒にゲームしようよー」

弟の声。
テレビ画面は先程のゲームと変わっており、パーティゲームでもしようとしているようだ。
いつもなら一緒にするのだが……、となりに成長期の弟を並べてもまだ大きいその背中の存在。
勿論、するわけがない。

「勉強しなくちゃならないからパス!」
「えー…」

背を向けると、文句が飛んできたが無視して自室へと戻る。
自分しかいない空間と安らぎのベッドに体を預けると安堵の息が出た。
まだ警戒を完全に解けるわけではないが、自分の部屋は落ち着く。
弟たちの楽しそうな声と、お母さんがごはんを作っている音が聞こえて、取り残されたように感じ少しさびしくも感じるけど。
きっとこの流れ的に彼はうちでご飯を食べていくから、まだまだ油断はできない。
しばらくは弟たちの相手をしてくれているだろうし、私が部屋にいる限り接触は免れるだろう。

コンコンッ

ノック音のすぐ後に、入るぜよという声。
私はあわてて体を起こす。
こんな訛りに心地よい低音は、うちの家族にはいない。

ガチャ、と部屋の扉が開き、彼が入ってくる。

「勉強しとったんとちゃうん?」

くすりと笑いながら、ベッドの上で中途半端な恰好をしている私を見た。

「……ちょうどやろうと思ってたところ」
「の割には着替え取らんけん」
「別にいいでしょ。弟たちと遊んでやってよ」
「二人は俺抜きでも楽しんどるき、大丈夫じゃ。それより、ぶんの数学みてほしいとお母様から頼まれた」
「……それは大丈夫だからさ。ほら、二人ともすっごい喜んでたじゃん、下いってやってよ。かまってあげて」

部屋から出ていってほしい。
まだ心の準備もできてない。平気でいるような演技も貫き通す自身もない。

「じゃあ、着替えるから……」
「ぶんちゃんさぁ…」

強制的に部屋から出してしまおうと、シャツの上に着ているカーディガンのボタンを外し始めた私の手を、彼が掴んだ。
まさか触れてくるとは思わなくて、驚きとそれだけが因子じゃない心拍の乱れが身体で起こる。

「あんましそんなにあからさまに避けられると、傷つくんじゃけど?」

目を向けると、彼の整った顔がすぐそばにある。
合った目は彼が持つイメージ通り、どこか冷たさが帯びていた。
彼が怒りをあらわにしていることがすぐにわかり、反射的に体に恐怖が走る。
彼が怒ることは滅多にないが、その分怒った時が怖いのだ。それは幼いころから、まるで親が怒っているのが記憶にこびりついているように、刷り込まれている。

が、なんで彼が怒っているのかわからない。確かに生意気な口でなかったとは言わないが、許容範囲であろう。というか、彼がこの程度で怒るような心の狭さではなかったはず。
しかし身体がは硬くなり、それを見通した彼がすこしだけ目を細めた。

ぐっと肩を押され、私はベッドに倒れこんだ。元々そこに腰かけた状態のままだったから、容易に背中は掛布団の上に着地した。

「ちょっ」

その上から、彼が登ってきて、私の上へと乗っかろうとしてきたことに焦りの声が漏れる。

「なにしてっ」

身体を起こそうと手を付くも、馬乗りになった彼がそれ以上の力で両肩に力を込め、私はそれに逆らえず態勢を変えることすら叶わない。
首筋に近づいてくる気配、くすぐったい彼の髪の毛先が掠りハッとする。
首筋に顔を埋めた彼は、襟の隙間から私の肌に唇を寄せた。
その感触に体が跳ね、じんわりと熱を発するのは、きっと過去に刷り込まれたものに違いない。
次には舌が這わせられ、胸元がごそごそと彼の手の元で動く。
シャツのボタンが上から外され、余裕を作りシャツから肩の部分を露出させられると、外気の冷たさが肌を撫でる。
それでも彼の手は止まらず、晒された部分への愛撫をしたまま、最後のひとつを外してしまった。

首筋の彼の触れた一点から、接触するたびにじわりじわりと熱が広がっていく。体の奥から呼び覚まされるように湧いてくる体温の波は徐々に高くなっていき、あっという間に甘い快感と引き出して、私を支配した。
飼いならされた犬のように気持ちいいコトには従順で、抵抗できるはずの自らの手は力を抜いてしまう。

「ん、んんっ……」

やけに色っぽい声は自分のものなのか。
恥ずかしくて体を捩じるけど、抗う態度を示すものなんかじゃ決してない。
それが自分でも分かって、浅はかな女だと我ながら思った。
彼もそう思ったのか、一瞬満足げに笑うと露わにされた肌を楽しむように撫でている。腰のラインを何度もなぞりこちらの様子を伺っていたが、十分に楽しんだのかスッと背中に手を差し込むとブラジャーのホックを外してしまった。
途端に締め付けから解放されたそれは胸部から浮き上がるが、その隙間から彼の手が入り込んできてずり上がり、かわりに彼の手が乳房を覆い隠していた。

「っ…ん」

ふにふにと手のひらで押しつぶしたり、揉んだりしている手はどこか暖かい。いつもは冷たい彼の手のひら。
ぱちりと瞬くと、生理的なものか涙かほろりと目じりから伝う。
ぴちゃ、と音に続いたのは、胸の先端から生まれた快感。確実に次へ進むためにこなしてくる彼の行動はその意図のとおり、体は反応した。
しばらくしていなかったのに、秘部がじわりと蜜を分泌するのが分かる。
ふっと彼が胸から顔を上げると、胸を這っていた左手がするすると肌をなぞりながら胸の谷間、臍上、下腹部を通り、そしてスカートが阻むソコの上で止まる。
あっと声をあげそうになるも、彼の顔が視界を埋め唇が重なった。すぐに柔らかい温もりの隙間から舌が抜け出してきて、私の唇を割って口内へと入り込み荒らしていく。
ねっとりと熱い舌は、最高に欲を駆り立てて私を夢中にさせる。
時折吐かれる息は早く、熱い。
またそれが私の聴覚と触覚を通して、欲望を煽るのだ。

我慢できないといったようにスカートを手繰り寄せる彼の左手は、ようやくまでスカートの裾を掴むと、そこから中へと入ってきた。
普段は他人に触れも見せもしない領域。秘められた場所。
そんなところに侵入してくる手は、迷うことなく下着の中へさえも入ってこようとする。
するりと難なく下着の中へ入った手は、濡れそぼった秘部をなぞろうとした。

「ぶんー雅治くんーごはんよー」

びくりとお互いの身体が揺れる。
お母さんだ。
飛び上がった心臓が高鳴っているのをなんとか抑え、なんとか返事をする。きっと母さんは彼が私の勉強を手伝ってると思っている。パンツの中に手を突っ込まれまさにいまからいたしますということになっているだなんて思ってもいないことだろう。
さっきまでの私もそうだったはずなのに、このありさま。
一気に冷静になって、呆れてしまう。

「きりのいいところまでいったらすぐいくー!」
「あんまり長くならないようにねー」

階段下まできていた母が引き返すのを感じ取り、ひとまずほっとする。
が……、

「「…………」」

き、気まずい………!!!
だけどずっとこうしているわけにもいかなくて。
先に動いたのは彼で、すっと下着の中から手を引いて私の上からも退く。
私もさらけ出されたままの体を急いでシャツで隠し、背を向けてブラジャーを付け直してボタンを留めた。彼をちらりと伺うと、背中を向け、服の裾を引っ張ってからため息をついた。
なんとも言えない空気。
ぬるりと冷たい股間が気持ち悪く、そして苦い気持ちになる。
まだあんまり時間は経っていないのに、とても長い時間を過ごした気がする。ちょっとの時間でも、この雰囲気の中じゃ熱が冷めるのは早い。
ここにいるのが居たたまれなくて、早く下に向かいたいという気持ちが先走る。
ベッドの上で俯いていると、彼がまたため息をついた。

「部屋出るけん、とりあえず着替えてから出てきんしゃい」
「……うん。」

私は彼の背中を見送ると、普段着に着替えてから部屋の前で待っていた彼と無言でみんなが待つダイニングへと降りた。

もし、あの時に声が掛からなかったら私は流されるまま彼に抱かれていたのだろうか。
何も考えず、欲望が導くまま、あのころのように。





131018
エロ要素はいらないところです。
だけどなんかいれてしまったのはただの趣味ですかね。
(こんなことしてるから余計話がこじれる)



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