「んーっ」
手を組み腕を伸ばす
背中の筋肉が伸ばされる感覚が気持ちよくて思わず声が出る
目の前には広がるのは青い空
暖かい風が吹き、髪や服を揺らしていった
仁王先生に教えてもらってから足繁く通う屋上はお気に入りの場所となり、ここだけは飽きずにほぼ毎日訪れていた
考え事に耽ることもあればただ黄昏ることもあって
……そういえばこの前赤也がここでどこかで見たことある人が白衣を着ていたと言ってたな
あ、あと前に見舞いに来てくれた後に部室に飾ってある卒業生の記念写真を見たらそこに仁王先生と幸村くん達が写っていたらしい
あんまりじっくり見たことないからなぁ…ジャッカルと赤也は病院で仁王先生とすれ違った時見たことがあるとなんらか感じたらしい
……学生の仁王先生、見てみたいな
あんまり変わってなさそうだけど
それと毎日足を運ぶにつれて色々と知ったことがある
人が来なくて一人になれる時間帯とか、意外と医者もここに息抜きをしにきていたりとか、こんなに気持ちいいのに屋上を利用している人は少ないとか
そして仁王先生がたまにここでぼーっしている……とか
その横顔がいつもと違う感じでかっこよかったり…
まぁそんなこんなで色々と収穫がある
他にも……
「丸井君」
「…柳生先生」
最近屋上で知り合った先生と話すようになった
柳生先生は真面目で冷静で、気品と知性を感じるとても紳士的な人だ
話していてもタメになることや、仁王先生がいなくて学校の課題がわからなかった時に少し教えてくれたりする
直接教科書を持って来ないから軽くアドバイスするような感じだけど、彼の説明は仁王先生同様とても分かりやすかった
やっぱり医者って賢いんだなぁ
「今日も息抜きですか?」
「うん、っていつも息抜きだけどな…。柳生先生もお疲れさま」
「いえいえ。貴方が来てから負担が減りましたから前ほど疲れてませんよ」
………どーゆー意味だ
ものすっごく追求したかったが、その前に柳生先生が喋りだした
「貴方の前での仁王君は面白いですね」
「え?」
立て続けに気になる事を言われひとつ前のことを問い詰めようとしていたのに聞き返してしまった
柳生先生がスッと眼鏡を上げた時、思いの外仁王先生より鋭い目が一瞬映った
「あんなに仁王君が笑ったり表情を変えたりしたり、口調をそのまま出すのも珍しいですよ」
と含み笑い
「へぇ……」
仁王先生のことよく知っているんだなと、その語る姿から悟る
ちょっと変な感じかも…なんて
そういえば仁王先生って詐欺師って言われてたくらいだから、ポーカーフェイスとか得意なんだろうな
一緒にいてたまにそう感じることもある
まぁ初めてあった時から結構にやついたり優しく笑ったり心配した顔を見せていたのでそう言われても珍しいって感じをあんまり感じないけど
しかしそんなことを考えていたとき柳生先生が意味深な事を言った
「そして妬いている姿も」
「え?」
呟くように言われた一言に、ちゃんと聞き取れた気がしなくて聞き返す
だがそれは屋上の扉が閉まる音でかき消された
「やっぱりここにおったんかブンちゃん。」
姿を見なくても分かるその声の主は話題の人で
柵にもたれていた体を少し起こし、後ろを振りかえる
「仁王先生」
「柳生もおったんか」
「ええ。ちょっと息抜きに」
銀の髪を緩やかな風に揺らしながらこちらに歩いてくる
「あ、そうじゃ」
すると仁王先生は柳生先生の肩に腕を回した
親しい人の前では猫背になるせいで身長差が更に増え、柳生先生が前のめりになる
少し迷惑そうに眉を寄せ衝撃でずれた眼鏡を上げた彼はそんな仁王先生に慣れている様子で文句を言うのを諦めていた
「こいつ、当時の俺のダブルスパートナー」
「……………。」
間
「え!!!!?」
一拍ずれて驚きの声をあげる
冗談?冗談だよな?
ちらりと柳生先生を見るとただ何も語らず眼鏡のブリッジに指を当てていた
………まじかよぃ
仁王先生のパートナーなんてとんだ変人だと思ってたんだけど…
実際はそんなことない、まるで正反対と言えるくらい真面目で律儀な常識人の柳生先生で
そこで俺は瞬時に理解した
今までの柳生先生の態度を思い返して。
「……苦労人なんですね、柳生先生」
「……わかります?丸井君」
哀れみの目を向けるとため息混じりに返ってくる
「なん?人の事を迷惑そうに言いおって」
「実際に迷惑しているんです」
「実際に迷惑してんだろぃ?」
「………ハモらんでも」
見事に重なった声に苦笑する
あ
そうだ、赤也が何処かでみたことがある白衣の人って柳生先生のことじゃないか?
部室に通っているうちに何度か目にしている記念写真の柳生先生を無意識に覚えていた……とか
それなら繋がる
ということは……
「柳生先生も立海大付属卒業生?」
そしてレギュラー?
「そうですよ」
やっぱり
「柳生せんぱーいっ」
「ちょ、ブンちゃん俺の時えーとか言っとったのに!」
ふざけて呼んでみると仁王先生が食いついた
「え、先輩って言ってほしいの」
「おん」
「へぇー」
「…言わんのかい」
なんて言っていたけど、内心は少し複雑な気持ちだった
だって柳生先生と仁王先生は同期で…中学校から今までずっと一緒だったんだろう
そう考えると……なんだか嫌な何かが心に生まれた
ずっと前から、彼のことを知っている。そのことに。
どうしようもないことなんだけど、どうしようもなく妬く
ああ……やっぱり俺って、…………
そこまで思って首を振る
そして頭からその考えを消すことにした
「お二人とも、仲がよろしいことで」
そう微笑む柳生先生にちょっとだけ切ない思いを胸に微笑みかえした
110514
やっと柳生を出せました
といってもあんまり重要じゃない役割……