入院生活を初めてから数ヵ月…

寒かった外は春が訪れ暖かな日差しのお陰で今は一枚羽織るだけで十分なくらいになっていた

最初は慣れない病院生活も、今では院内を散歩する程になった

逆に言うとすることがなくて暇だから散歩をするようになっただけだけど

母さんに頼んで持ってきてもらった本や雑誌、赤也やジャッカルが持ってきてくれた漫画も、学校と部活がないだけであっという間に読むことが出来てしまう

何度も催促するのも気が引けるので同じ本を読み返すが、読みすぎてセリフを覚えてしまった

こうなってしまえば日課になりつつある、これまた見慣れた院内を散歩するしかなくなるのだ

ジャッカルがとってくれている授業ノートのコピーと教科書と向き合うのもいいが、息抜きも必要だと思うんだ俺は

つーことで散歩をするためベッドから抜け出すと病室の扉の方へ歩いていく


ガチャッ


「「あ」」


声がハモる

ドアの外側にはノブに手をかけノックしようと握った手を上げている仁王先生がいて

偶然が重なり、お互いに目を丸くしていた


「ブンちゃんお出かけ?」


最初に会話を切り出したのは先生の方


「うん。じっとしてるのがいやでさ…っても、病院を回るのも飽きてきたけど」


病院は人の入れ替わりが激しい
だから見慣れた風景というものは存在しないのかもしれない

だけれど見慣れた院内というのはやはり飽きてしまう要因だった
今のところ散歩の途中でたまに院内学級みたいなところでチビ達の相手をしてやるしか楽しみはない


「屋上は行ったことあるん?」

「えっ、ここ屋上入れるの?っていうかどこにあるの」

「あー…入り口分かりにくいからのう。ブンちゃんが知らんでも無理ないぜよ」


それなりに病院の中は把握しているつもりだった
だけど屋上への道なんて見たことなくて

中学高校といい、よく屋上で昼休みを過ごしていたので屋上と聞くだけで興味が少し湧く


「ブンちゃんもう一枚羽織りんしゃい」

「ん、」

「連れていっちゃる」


先生に言われた通り一枚羽織り、共に廊下を歩く

先生曰く暖かくなったからと薄着をして風邪をひく患者が多いらしい
ここは病人が集まる場所なのでただの風邪でも、最悪こじらせなんてすれば一大事、命に関わることなのだ

だから季節の変わり目は気が抜けないと言っていた

とある廊下の角を曲がると来たことのないの屋上への道が続いている

途中階段で降りていく人とすれ違ったが、ぺこりと挨拶をしたら向こうもにこりと笑い返してくれた


「わぉ」


扉を開けた瞬間、風が二人の髪を撫でる

屋上へと踏み出すと、さっきの人が最後だったようで人の姿はなかった

ベンチと、学校のように手入れされてないようなものとは違う整備された床
そしてフェンス


「気持ちぃー」


柔らかく暖かい風


「気に入った?」


髪を風になびかせ隣に並ぶ仁王先生が小さく微笑んだ


「うん。最高」


にこりと笑い返すと頭を撫でて来る

また子供扱い……

そりゃ二十歳越えてる先生からみたら高校生なんてクソガキだろうけどさ…

いつか仕返ししてやる

なんて思いながら柵に持たれつつ会話に花を咲かせていた


「甘いもの食いたい」

「甘いもの好きなん?」

「ちょー好き!ケーキとか菓子とかめちゃ食ってた」

「だから血糖値高かったんか」

「うっせぇ」


ついでに先生はあまり甘いものは食べないらしく肉が好きらしい
色々と聞いてる限り偏食にしか見えないんだけど……

医者の不養生がなんとやら……


「………っ」


不意に息を飲んでしゃがみこむ


「ブン太?」


胸元を押さえながらうつ向くと先生はすかさずしゃがみこんだ

発作が起こったかもしれない
そう判断したのだろう


しかし


「……!!?」


ガシリとしゃがみこんだ仁王先生の肩を掴む
そしてもう片方の手で体を支え上体を伸ばし、彼の前髪の掛かる額に口付けた


唖然とする先生
ケロッとしている俺


次にニヤリと笑うと仁王先生は呆れたような顔をした


「……ブンちゃん」

「いつかの仕返し」


べっ、と舌を出す

されっぱなしは嫌なんですー

なんて。


「この仕返しは覚悟しときんしゃい」

「元は先生からなのに俺仕返しされんの?」


笑みを溢せば彼もつられて



こんなとある昼下がり


二人きりで外で話すのもいいかな


そう感じた日だった











110511




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