「丸井先輩っ!」

「ブン太、来たぞ」


平日の午後、そう言って部屋に入ってきたのは切原こと赤也とジャッカル、そしてレギュラー陣の面々だ


「よく来たなお前ら!元気にしてたか?」

「それはこっちの台詞だろ丸井!」

「そーだぜ心配かけやがってよぉ!」


と頭をぐしゃぐしゃと掻き回される

相変わらず仲の良さに家族がきた時同様自然と皆が笑顔になる


「お前らちゃんと手土産持ってきただろうな?赤也が期待してろって言うからマジ期待してるぜ?」


とニヤつきながら言った

すると部員達は花束とケーキの箱を差し出す

好物であるケーキを見て自分のテンションが上がるのを感じた


「合格!」


なんて冗談を言い合いながら時間を過ごし、お前ら二人積もる話もあるだろ?と気を使った部員達が赤也とジャッカルを残し帰っていった

二人にあの後どうなったか、部活の様子とかを聞いていく
あと心配を掛けてすまない、とも。

二人は笑って気にするなと返し、やっぱりこの二人は友達でよかったとその笑みをみて俺は思った

三人で話しているときの時間の経過はさっきよりも早くてあっという間に時間が過ぎる


「絶対に元気になってください。そしてまた全国行きましょうね」


帰る際に赤也が言った言葉だ

当たり前だろぃ!そう言って笑顔で見送り、二人は病室を後にした













「仁王先生?」


ノックがなる前に、扉の前に彼がいる気がして呼んでみる

二人が帰ってから随分経つが、何だか人に会いたくて無性にしょうがなかった

するとやはりいたようでガチャリとドアが音を立てた


「よぉわかったきに」


入ってきたのは予想通り仁王先生で


「だって俺天才だから」

「そか」


白衣を揺らしてベッドの横までやって来る

そして先程まで赤也が座っていた椅子に座った


「えらい騒がしかったのう。病室では静かにせんといかんぜよ?」

「ごめんごめん。……部活の奴らが来たんだよ」

「なるほど。最後の二人しかほとんど見ちょらんけどな」

「ああ、赤也とジャッカルか」


きっと最後に残った二人だけをはっきり目撃したんだろう

まぁレギュラー陣があんなぞろぞろ病院にこれば目立つっちゃ目立つし一人一人を覚えているわけない


「俺の相方と後輩なんだ」

「ほぉ…一回話してみたいのう」

「何で?」

「ダブルス組んでた者としてその相方も気にならん?」

「……まぁ」


考えてみれば気になる

つーかよく考えると先生ってダブルス組んでたんだよな?
こんな人によく相方がついたな
相方もかなり変人とか?
すっげー気になる

なんてその相方がこの病院にいるということを知らないブン太はどんな人かを想像してみるがやっぱり無理だった


「………ブンちゃん」


声を掛けられ彼の顔を見る

何故か先生の顔は心配そうにこちらを見ていた

その表情を見て自分の本心を見透かされたのかとぎくりとなる


「な…に?」


どもりそうなのを必死に堪え、言葉を紡ぐ


「………」


しかしあからさまに誤魔化した俺を見て無理に言わせる気はないらしく仁王先生はなんでもなか、と首を振った

気づいては、いるんだ

俺が今、複雑な気持ちになっていることに


「まぁ軽く注意しにきただけじゃ。またの」


ただそう言って結ばれた一房分の髪を揺らし先生は背を向けた






「待って」






扉へ向かっていた先生の背中がぴたりと止まる

自分自身も気がついたら言っていたという状態で無意識に伸ばしていた手をぴたりと止めた

彼が帰ってしまうと思ったら、呼び止めずにはいられなかったという感じで

視線を迷わせていると仁王先生はこちらに振り向き、先程のように心配した表情をしていた

心配を掛けている…

その視線を受け止めると、ここは素直に言うべきなのかと感じた

でもこれはただ自分が怖いだけ

もしそうだとしたら、知るなら知るで俺は一早く知っておけばと後悔するだろう

唇をきゅっと引き締める

それから勇気を出して口を開いた



「俺って死ぬの?」



しんとした病室に…自分の耳に異様に響いた

でもあっという間にその反響は消えて

ただ先生の返事を待つ






「絶対という訳じゃなか」






そう答えた仁王先生はぎゅっと目を瞑っていた俺を撫でた

恐る恐るゆっくりと目を開くと、先生の目とばちりと合う


「ほんと……?」

「ただ、可能性は低くくはない」


そう言われて絶望しない人はいない
きっと彼は今までの患者を見てきてそう思っただろう

だけど俺はホッと息をついた

その様子に驚いたように彼は目を瞬かせた


「怖くないん?」

「怖いよ。だけど俺死ぬと思ってたから少しでも可能性あるならいいかなって」


確実と考えていても可能性は低くないと言われれば普通は落ち込むものだ
だって結果的に死んでしまう可能性があるのだから

薄く浮かべる笑みが空元気なのかと不安がよぎるがブン太の表情はそうには見えない


「低かろうが高かろうが…俺には生きれる可能性に縋るしかない。だから俺は生きてみせるよ」


そう笑って見せた

儚くもあるけど……とても明るくて強い笑みだった



「ブン太は強い子やね」


と仁王先生が頭を撫でてきた
髪をすきつつ、あやすような手の動かし方

ふと子供扱いされてるような気がして


「高校生にその慰めかたって……小学生じゃないんだから」


と唇を尖らせる


「なん?大人の慰め方がよか?」


とニヤリと笑う彼

やれるもんならやってみろ、と口にしかけたが本当にやられそうな気がしたので慌てて口をつぐむ

変に本気で変にふざけてるから不利な発言はよしておくことにしよう

すると頭を撫でていた手が額の髪をさらりと軽く避ける

そして


――ちゅ


と額に柔らかい感触


「なっ」


目の前には殴りたくなるようなにやにや顔


「子供なブンちゃんには刺激が強かったかのう…?」


…………友達だったら手が出ている所だ

でも前みたいに他の患者にもしてるのかよと聞こうとしたがそうだと答えられるのがなんか嫌だった言わないことにした

ただ


「変態」


そう悪態をつく


「酷か…」


苦笑している仁王先生は言葉の割りに全くそんなことを感じてなさそうだった

それから暫く会話してから仁王先生は仕事に戻っていって。

その時彼の背中に聞こえないくらいの声でありがとうと呟いた






110510




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