今日は快晴
まだ昼なのに、窓から差し込む光は暖かくどうにも眠気を誘う

学生時代のことを考えると、こんな日はよく屋上で寝ていたものだ
いま考えると医者を目指すようになる前のことなので、昨日のことのように思い出せるのにもう随分としていない行為なのだと時間の流れの早さを思い知らされた

そんな気持ちで廊下を歩いているとパタパタと早足に男の子二人が駆けていく

元気だなぁと思いながら廊下の先に視線を戻すとどこか見覚えのある女性がおり、すぐに思い出してぺこりと頭を下げた

向こうも俺に頭を下げる

あの女性は……丸井ブン太のお母さんである

少し前に彼の病気について説明をするときに会って以来だが、ブン太に似た顔つきだと気づいたら忘れることはもうないだろう


「ブン太がお世話になっています」


そう言いながら近寄ってくる彼女はどこか心配そうな面持ちで
やはり病気の事が気に掛かっているのだろう

彼の両親と話し合い、病気の事は自分達で状況を判断していつか言うとのことだった

但し彼から医者側に聞いた時は教えてあげてほしい、と

聞かれないままならこちらに任せてほしい。
そういう要望だった

なのでとりあえずは心臓の病気とは言ってはいるが詳しいことはまだ最低限のことしか言っていない

……告知については色々と議論されているが、本人達やその家族にとってはその時の状況で判断するしかないのだ

間違いだとか、そうじゃないかなんて分からない


「では、」


一通り挨拶を済ませ、俺はブン太の母親と廊下で別れた















廊下からパタパタとうるさい足音が複数聞こえてくる
なんだ?と思っているとそれは自分の病室の扉の前では止まり

元気よく扉を上げながら二人の男の子が顔を見せた


「「ブン兄ちゃん来たよ!!」」


それは自分の弟二人で

久しぶりに会ったような感覚になっているのだろうか、二人とも変に興奮していてきゃーだとか兄ちゃーんとか騒ぎ出す


「こらお前ら!静かにしろぃ!!」


ったく、家にいるときと同じぐらいうるさい奴らだ

でも静かな病室にいたせいかそれが少し懐かしくも感じる

ごめんなさーいとあんまり反省してなさそうな声で謝ると、上の弟が椅子に座り下の弟が靴を脱いでベッドによじ登ってきた
癖で胡座をかくと、その上に下の弟を座らせてやる


「お前ら母さんに迷惑かけてないか?」


やっぱり心配するのは家のこと
お泊まりをして家に帰らないことは少なくはないし、合宿で何日か家をあけることもあったけど、やはり家の状態がわからないのはあまり好きじゃない

しかも今回は学校で倒れて、そのまま入院だから


「兄ちゃんみたいに悪じゃないから大丈夫だよー」

「俺達いい子!」

「お前ら……!!」


すぐ近くにいる下の弟の脇腹を擽ってやると、さっき叱ったこともあり声を押さえてけらけらと笑っていた
上の弟もそれをみて控え目に笑っている


「こらあんたたち、ここは病院よ」


聞き慣れた声

ドアの方をみると


「母さん」

「ブン太、調子はどう?」


そこには荷物と花束を持った母親がいた


「大丈夫」

「そう。あ、着替え持ってきたわよ」

「お!母さんサンキュー!」


荷物を受け取り、備え付けの棚の上へと置く


「その花束は?」


家族がもってくるような感じじゃないそのブーケを指差し問う

これはね、と俺の方に差し出してき、それを受け取る


「ジャッカルくんと切原くんが個人的にくれたものよ」

「あの二人が?」

「ええ。今度部活として代表でくるからお見舞い期待しておいてって切原くんがいってたわ」


ジャッカルと切原は同じテニス部の部員で、ジャッカルは小学校、切原は中学校からの仲だ
三人でよくつるんでいてバカもしたし一緒に協力して全国も優勝した

テニス部内では特に仲のいい二人がこうして花束をくれるのは、やはりすごく嬉しかった

それを感じたのか、母さんの顔も自然と笑顔になる


「今日は時間がないから、花瓶に活けたら帰るけど何か欲しいものがいたら言いなさいよ」

「わかった」


再び花束を渡し、母親が病室を出ていく

その後すぐに病室の扉がノックされ、はいと応える

母と入れ違いに姿を表したのは


「お、さっきのちび達か」


仁王先生


「ブン兄ちゃん、誰?」


下の弟がベッドから降り、先生の方を見て呟く


「仁王先生。俺の担当をしてくれてるお医者さん」

「お医者さーん!」

「におーって聞いたことない!」


……何だかテンション高いな

心なしか先生を尊敬の眼差しでみているのは気のせいか
気のせいだと思いたい

つーかお前ら俺にそんな眼差し向けたことねーだろ!!


「ブンちゃんお兄ちゃんじゃったん?」

「おう。長男だぜ」

「長女の間違いじゃ…」

「あ?」


ギロリと仁王先生を睨む

つーか初対面の時にカルテ間違えたってもしかしてそういうことか?
今理解したぞ

更に恨みも込めて睨み付ける


「あら、仁王先生」


その時母親が花を活けた花瓶を持って戻ってきた


「お帰りになられたと思ってました」

「もう今から帰るんですけどね」

「そうなんですか」


標準語に戻る先生にやはり違和感を覚えたが、母親や訛りを聞いていた弟達でさえ気づいていないようだった

ことりと窓際に花瓶を置くと、母さんが弟たちに帰る準備を促した


「ブン太を宜しくお願いします」


先生に向かってお辞儀をすると、弟たちも先生に近寄り


「「ブン兄ちゃんをお願いします!」」


とお辞儀をした


こちらこそ、と先生が営業スマイルを浮かべると、三人は病室を出るときにまたねと俺に手を振って帰っていく

あっという間だったけど、家族の有りがたさを少し感じた時間だった

残った俺と仁王先生は急に静かになった病室を見て互いに小さく笑い合う


「にしても、ちび達はブンちゃんそっくりじゃのう。リアルアルバム見てる気分だに」

「天才的可愛さだろぃ?」

「敢えて言うなら女性的可愛さなり……ってその花瓶置きんしゃい!」


窓際の花瓶を掴む
まぁ二人からもらった花を投げるわけないけどな


「弟、か……」

「先生兄弟いねぇの?」

「おるよ」


弟が一人、姉が一人と続ける先生に俺は目を丸くする


「え!?先生一応お兄ちゃんなの!?」

「何じゃその驚き様は」

「生まれるとこ間違えたんじゃないかと思って…」

「プリッ…失礼な奴じゃ」


もう変な口癖はつっこまないことにした


「でも弟がいるとしたら……そっくり?」

「似てるとはよう言われる」

「マジ!会ってみてぇ…!!」


何て言ってみたら


「ちょっと若い俺に興味あるん?」


とにやりと言われた


「いや、弟さんまで変人なのか気になってさ…」

「……プピーナ」


どう言う意味だ、と目線を向けられたのでお前こそその口癖どういう意味だ、と目線を返してみた











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