先日、意味不明な…って言うか変な担当医が来た

あいつ絶対AB型だ
って断言出来るって奴

あ、でもこれ他のAB型に失礼だな
ジローくらいにも謝っておこう

で、その担当医…仁王雅治先生
医者になって二、三年目らしく俺にはそれが医者にとって新人なのかもう慣れてる頃なのか分からないがともかくこの人本当に医者なの?ってタイプで

髪が銀?白?なやつなんて漫画とかドラマでしかみたことねーよ
俺が言えた義理じゃねぇけどさ

でも変わっているのは見た目だけじゃない
性格もだ

掴み所がないって言うか…まぁまだ全然話したことないんだけど、変わり者なんだなって事はばっちりわかった

昔から人を見るのは優れている方だから



―――コンコンッ


部屋にノック音が響く


「はい」


こんな時間に誰だろう
看護師さんはさっき来たばかりだし、弟たちも来週にくる予定だ

………もしかして


「ブンちゃん調子よか?」


噂をすれば影


「まぁまぁ」

「そ」


そ、じゃねぇよ医者だろ
普通万全じゃなかったら一言二言いうもんだろぃ?

やっぱりこの先生は変わっている


「そういえば部活動中に倒れたんやって?」


先生が来客用の椅子を引き寄せ、ベッドの横に座る


「そーみたい。あー…あと1ゲームだったのに……」


俺は練習試合中に倒れたらしい
確かに自分の記憶は1ゲーム取ればこちらの勝ちという状況までははっきりあり、突然胸が痛みだしたままその先は途切れているから決着をつけることは出来なかったのだろう

……多分心配かけただろうな


「何しとんの」

「テニス」

「ピヨッ。俺も中高はテニス部だったぜよ」

「(ピヨッ……?)マジ!?」


聞きなれない言葉にはてなを浮かべながらも同じテニスを経験している者同士として食いついた

ていうかテニスとかちょっと意外だな


「学校は?」

「立海大付属」

「わ!俺も!」

「じゃあお前さんは後輩に当たるんか…」

「……えー」


えーとはなんじゃ、と苦笑いする先生に俺も笑う

まさかおんなじ学校だったなんて!

こんな滅多にない偶然にテンションが上がっていく


「レギュラーだったの?」

「おん。」

「うわ、本当に先輩じゃん…!俺もレギュラーなんだ」

「ほう。ブンちゃん強いんやね」

「俺天才だから?」


と笑顔で答える

中学生の時から変わらず妙技を売りにしているだけあって、ボレーは誰にも負けない自信はある

高校ではなかった体力を頑張って付け、さらに自分を高めるよう毎日頑張っていた


「シングルス?ダブルス?」

「よくダブルス組んどったぜよ」

「俺もよくダブルス組むんだ。やっべー!すっごい興奮してきた」


だって大好きなテニスを語れる人がいるんだぜ!
しかも自分と一緒の立場の人と!


「たまに見とるけど、常勝は相変わらずみたいじゃのう」

「おう。今回こそ三連覇してやるんだ」

「おー…懐かしいのう。俺らも三連覇狙っとったけど、結局二連覇で止められたけぇの」


ちょっと残念そうに、だけど吹っ切れた様子で言う仁王先生
その言葉にぴくりと反応する


「………どこの学校に阻まれたの?」

「青学」

「うぇ」


マジかよ


「しかも中高とも三年の時に」

「俺も中学ん時は青学にとられた」


これは因縁なんじゃないだろうか
青学に三連覇を毎回阻まれるだなんて…

…でも来年こそぜってぇ負けねぇ



その気持ちはあるんだけど……


「俺、来年の全国出れんのかな……」


勿論県大会も、関東大会も

だけど……自分は病気になって、今ここにいるんだから

詳しくは知らないけど心臓の病気と聞いている

きっと今後手術が必要だろうし、もしかしたらずっとベッドの上で過ごさなければならないのかもしれない

そう考えると…気持ちが沈んだ

俺は、青学にも病気にも負けたくないのに


その時ぽんっと頭に何かがおかれた

仁王先生の、手だ


「そんな弱気になったらいかんぜよ」


そう言った声や頭を撫でる仕草はとても優しくて
少し切なくなる

弱気になるなんて自分らしくない…
わかっているけど、あの胸の苦しみを思い出すと…ちょっと完全に振りきれなかった


「俺ん時にも、レギュラーで病気になったやつがおったんよ」


それを聞いて俯き気味だった顔を上げる

その時目に入った仁王先生の顔は何処か悲しそうで、でも微笑んでいて……


「そいつはテニスが出来んくなるって言われとった」


ぞくん……

心臓が嫌に動いた
その言葉は自分が一番言われたくない言葉だ

そんな俺の気持ちを汲み取ったのか、先生は安心させるようにぽんぽんっと手を動かした


「じゃけん、そいつは関東大会決勝の日に手術して、全国に出おったなり」


驚いて顔を上げる
その時合った目は先程のような悲しみはなくて


「優勝こそは出来んかった。じゃけどテニスは出来た…だから、」


目の高さが合うくらいにしゃがみこみ覗き込まれる

仁王先生はふわりと微笑み


「お前さんも頑張ってみんしゃい」


お前さんに落ち込んどる顔は似合わん、そう付け足して




「さて、せんせーは仕事に戻ろうかのう」



スッと距離を取り、立ち上がったせいでまた視線は上を向く
頭から温もりも離れていき、少し残念だと思った


「先生、ありがとう」


控えめに笑う


「よかよか。慰めるのもにおーせんせーの役割じゃー。なんなら体も慰めてやろうか?」

「それ他の患者にも言ってんの?」


けらけら笑う先生に自然とこちらもつられ、気がつけば笑顔になっていた

おかしくて、苦笑いで返す


「言ったのはブンちゃんだけじゃー」

「うわあ。それはそれで複雑」


隠さず言えばまた冗談で返してくる
そんなやり取りが少し続きプッと互いに吹き出すとじゃあの、と仁王先生は病室を出ていった

静かに閉まる扉

それを俺は暫く見つめていた



俺、変なひとだけど仁王先生が担当医でよかった










110506




- ナノ -