騒がしく運ばれてくるストレッチャー

周りは冷静に判断する看護師と救急車の人員

そしてたまたま居合わせたざわざわと見る人、慣れて静かな人


通りすぎた後もそれは暫く続いていた


「なんじゃ」

「学生が部活動中に倒れたようですよ」

「ほう」


誰ともなく呟けば先にいた柳生が教えてくれた


部活動中の急変…よくない響きだ

だがここに勤めてからはわかかったことがある

それはそう少なくないことであること

……慣れと言うものは怖い

嫌だった響きもそうかの一言で済むようになるのだから

過去は所詮…通り過ぎたものなのか









「仁王君これ」


貴方の新しい担当です。そう言って差し出されたのはカルテだった

先日一人送り出したばかりなのにもう来たのか

その記入欄の年齢を見れば表記されている数字は17…


「高校生か」

「この前運ばれてきた部活中に倒れた子らしいですよ」

「ほう」


それなら覚えていた
だけど顔は見ていないのでどんな人物かは特定できないが

引き続き目を落とし、情報を読み取る

性別 男
氏名 丸井 ブン太


「これまたからかいがいのある名前じゃのう………」


そうくすりと笑う

するとちゃんと読んでから本人と会ってくださいねと柳生に注意されてしまった






「失礼します」


コンコンとノックしてから病室の扉を開く

担当看護師はもうすでに挨拶を終えているらしく、俺一人での面会だ

ひょこっとベッドの上から顔を覗かせた赤髪の患者と目が合い、ぺこりとお辞儀をされる

それを室内へと入っていいと承諾と取り、足を進ませた

ベッドの正面へ移動し改めて担当患者の顔を確認すると…


「あれ…カルテ間違えた?」


可愛らしい顔立ちに大きな目
ふっくらとした唇


たしかカルテには男、と……


「先生?」


しかしそこでハッとする

声は予想より低く、瞬時に見た目が女性のように見える男の子なのだと悟る


「あ、いや……」


多分この女顔だ
初対面の者には幾度か間違えられたことがあるだろう

第一印象を悪くする必要ないし敢えてそこには触れないことにした


「担当医の仁王雅治です。これからの貴方の治療の手伝いと管理をさせていただきます」

「お願いします」


髪を赤く染めているからどこぞの不良かと思ったがなかなかしっかりした青年のようだ

部活動にもちゃんと参加していた様子だし、ぱっと見の印象とはかなりかけなれている

まぁ自分が言えた義理じゃないが

医者として説明しなくてはならないことをあらかた伝え、最後に長期入院になるが頑張っていきましょうと元気づける

まぁ大体することは話したので帰ろうかとした時、彼は俺を何か探るような目で見ていた


「なぁ仁王先生」

「なんでしょう」

「……普段そんなしゃべり方してる?」


スッと目を細める

自分自身の何かを当てられた時に出る、コート上の詐欺師としての癖

未だにそれは健在で無意識に患者相手に冷たい視線を一瞬向けかけた


「なんでですか?」

「……やっぱ変。違和感がある」


なかなか人を見る目があるようだ
初めて見抜かれた…

会って僅かの時間で見抜くその洞察力の高さ

……未だに口調を変えたり変装したりするのは得意だっただけに少しの驚きを覚えた


「……まぁいつもはこんな感じでしゃべっちょるね」

「あ、そっちのほうがしっくりくるわ」


にっと笑うブン太

患者相手には標準語で喋っているのだが、普段は訛っているのを気づかれたことはなくて…

だからこうして普段の口調を患者の前で話すことは初めてだった


「お前さんが初めてぜよ。気づいたのは」

「え!?マジ!俺って天才的ぃ!」

「自分で言うんかそれ」


だって俺天才だから?と笑う彼

これまた自信家というか…個性的な奴が来たものだ

だが、いじり甲斐のありそうな性格をしている


「ブンちゃん」

「あ?」

「って今度から言わせてもらおうかのう…」


とニヤリと言うと顔を軽くしかめた


「えーやだ」

「女の子みたいで可愛いと思わん?」

「尚更いやだ」

「ブンちゃん」

「おい」

「ブンちゃんブンちゃん」

「おいっ」

「ブーンちゃん」


しつこく言うとブン太は軽く呆れたような表情になって。


「っと…もうそろそろ行かんと、じゃあのブンちゃん」

「っておい!待て!」


時計を見てから病室の外へ向かう

言い逃げされたのが悔しいのか何か言っているのを背中に浴びたが、気にせず扉を開けて廊下へと出た

病院では静かにせんといかんのにのぅ

なんて、原因は自分にあることを棚にあげる

…それにしても面白いやつが担当になったものだ

これから暫くは賑やかな日々を送れそうだ


そう俺は一人ニヤリと笑った










110427
やってしまった…!




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