あの日みんなの願いを短冊に書いて吊るした七夕竹

願いは叶ったのかもしれない
ただ一つの願いは確実に省いて

七夕が過ぎてあの笹は捨てるのはどうかと用具倉庫へと片付けられた

全国大会が終わった今、もうあの笹は水分は抜けきり若々しい緑は欠片もなく茶色へと変化しているのだろう

あの願いも、笹のように色褪せて…通りすぎた過去と言ってしまえたらいいのに……










さらさらと涼しげな音を立てて水が流れる

季節は夏を離れようとしていて、その名残か空は燃えるように赤いのに気温はどこか肌寒い

握りしめた草ももう太陽に向かい繁っていた頃のように青くはなく、へにゃりと手の中でひしゃげた

頬に伝うのは色んな感情が詰まった涙だった
寧ろ感情が溢れだしたものが涙となって出たというほうが自分にはしっくりくるくらい

もう吹っ切れている
だけど悔しい

そのような矛盾を多々胸に抱え、渦巻く気持ちは目から流れ出す


「ブンちゃん」


ざり、と砂がなる
川岸のせいか湿った砂利の音をしていたそれは声の主が踏み鳴らしたもので


「に、おっ……」


涙を拭わずに彼に抱きつく

こんな泣いてる姿なんて人に見せたくないのに、だけど今は見られてもいいから、こうしていたかった
彼は優しく背中に腕を回し、俺の涙を受け止めている

仁王の背中のシャツを握り胸を涙で濡らした


「あれ、流したんやね」


腕の中でこくりと頷く

七夕送り、といって七夕を過ぎたら川に七夕竹を流すというものがある
時期外れに、しかも色の変わった笹を中学生一人が流しているのはとても奇妙な光景だったかもしれない
それに、こんな山近くの…人気の少ないところなら尚更

流したいものは本当は笹なんかじゃない
きっと涙と悔しさと…その他色々
ただ一緒に流れて流されてそのまま消えてしまえばいいのに、と願う

あ、願っても叶わないんだっけ
だって俺たちみんなの願いは届かなかったんだし

誰に向けた皮肉かも分からず、でも向けるとしたら負けてしまった自分だ、と思う
他を責めるつもりはない
けど自分を責めたって意味がないことも知ってる


「なのに、やっぱり悔しいんだ…っ」


それはどんなに泣いても、どんなに今足掻いても

そんなことで過去が変わるなんてあり得ないし変わってほしくもない
変えるなら涙を流して乞うことで変わるやり過去に戻って自分を鍛え直すまで

……そんなことはあり得ない訳で
だから今こう涙を流す


「ブン太……」


抱き締める腕の力が籠る


「もっと言ってええんよ、もっと泣いてええんよ」


ぽんぽんとあやすように背中を叩かれる
うるせー誰が泣くか!なんていつものようにいいたいのに、背中に伝わる振動が涙腺を緩くしてぽたぽたと涙は落ちていく


「う〜…にぉーッ…」


唸ってから濁音混じりに名を口にする…まるで駄々をこねる子供のようだ
そう自分は子供
紛れもない事実で、自分が自覚していたところ
だけど年の離れた弟がいるからなのと自分の高いプライドがこんな風に泣くのを許さなかった

だけど今はそんなことどうでもよかった
後から恥ずかしくなることもわかっていたけど

流れる水の音に紛れて、違う水音がそこには存在を主張していた










どれくらいそうしていたかわからない

涙も喉もカラカラで子供みたいに泣きわめいて…今はそんな自分への羞恥で、彼のシャツから顔を離せなくなっていた


「……ブンちゃん」

「ぅ〜〜〜……」


きっとそれも仁王にはバレているんだと思う
苦笑いを浮かべているのを想像するのは簡単だった
それでもぎゅっと彼のシャツを握りぐいぐいと顔を押し付けると頭を撫でていた手はくしゃくしゃとと髪を掻き回す


「これ、もう泣いてないじゃろ?顔上げんしゃい」

「………やだ」

「今上げたらもれなく飴と雅治君からのちゅーを贈呈しちゃうなり」

「………ちゅーはいらないから飴ちょーだい」

「……ちゅーが一番欲しいくせに」


んなわけ、と顔を上げて言おうとしたけど遮られた
くちゃ、と袋が潰される小さな音と…予測はしていた、不意打ちのキス

そして唇を割って入ってくる舌と甘い甘い香り
押し入られる様に入ってきた甘いそれは二人の舌に遊ばれ絡められ、唾液に乗って甘く広がる
甘くて気持ちよくてまじ最高
さっき言っていたとは真逆なことにこっちも彼の首に腕を回してキスに夢中になって応える

ぴちゅ、と二つの唇が離れた時には飴は角が丸くなっていて、結局二つとももらっちまったと少しぼんやりとした頭でそう思った


「わっ!」


自分の視界が突然急降下するが、途中で止まる
仁王が慌てて腰に手を回し支えてくれたが、そのままずるずると服にしがみついたままゆっくりと下がっていき地に座る


「えっ?ええっ??」


足の力が入らない
ぐ、ぐ、と力を籠めているのに。
戸惑っていると俺の様子を見ていた仁王が自分と目が合うようにしゃがみこみ、そしてにやにやとしていてうわあ、その顔をどうにか殴ってやりたい。


「そんなにキスが気持ちよかったん?」

「…!んなわけねーだろ!!」


嘘。ずっげぇ気持ちよかった
けど、結構感じていたことがバレたことにポッと顔が赤くなる
とりあえず顔が赤くなったこともそれが本当と言うことも誤魔化したくて悪態を吐いてみる(ほぼ反射的に言ったけど)


「やって、キスが気持ちよすぎて腰抜けたんじゃろ?」


……………。

うぇぇぇええ!?
そういうことか
え、でもキスが気持ちよかっただけでこんな…
え、あっ……………俺情けねぇ………


「ついでにこのまま足腰立たんようにしちゃろか?」


にやにやから妖しい笑みを変えた仁王
意味が解らなくて暫くその言葉について考えてみるが、やっと理解出来彼を睨み付ける


「アホ!ここ外だろぃ!!?」

「ブンちゃん外でヤったら余計興奮しそうダニ」

「てっめ」

「キスだけで腰抜けてもうたブンちゃん可愛いーやらしー。感度良すぎるのも困りもんじゃねっ」

「じゃねっ、じゃねぇよ全然嬉しそうじゃねぇか変態詐欺師」

「おーおー折角家まで運んだろ思っとるんにその態度はなんじゃ。ヤるのも家まで我慢してやろうってしとったのにここで足ガクガクになるまで犯して放置したろか?」

「……え、仁王いつからドSになったの?」

「今から始めました」

「やだぁーまーくんに犯されるぅ」

「プリッ。たまにはそういうプレイもありじゃぁ」


……あれ、さっきまでのシリアスな雰囲気どこいった。
なんてさっきまで泣いてたのが嘘みたいで、確認するように制服のポケットに触れてみる

くしゃり、

紙のすれる音

確かに耳に届く
ただの紙の擦れる音が今はまだ涙を誘って

やっぱりなかったことになんか出来ない

……弱々しい顔をしていたんだと思う


「………ブン太、帰ろ」


そう言って肩を組むように腕を回して立ち上がらせる
立とうと思ったらまるで生まれたての動物みたいに足が震えてたけど、さっきよりかはマシになっているように思える


「きっと赤也が取り返してくれるぜよ」


ふと上からの方から聞こえる優しい声
顔は見えないけど、きっと顔もいつもからは想像出来ないような位優しいんだろう


「……うん」


時間は巻き戻せない
なら、まだ可能性のあるものに託すしかない
……赤也ならやってくれる
そう信じるしかない

期待という重荷を背負わせる事になるが、でも立海テニス部である以上、寧ろレギュラーを経験している彼だ、こんな重荷いつでも背負わされていた
彼だけじゃなく俺たちも

だからここはありがたく彼に託させてもらおう


「………高校は俺たちが勝とうな」

「……おん」


俺は先を見ることにするよ




七夕送り

この想いは流します
でも、願いは未来に送るよ






(さっきから我慢してるんだけどさ)
(なん?)
(もうこの状態かなり腰とかにくるんだけど)
(あー…身長……)
(お前もっと屈め)
(…俺が腰痛くなるじゃろ。)
(……まぁ)
(今痛くなってもうたらブンちゃんを気持ちよく出来んからのう…)
(お前本当シリアスブレイカーだわ)





110804
寧ろエロフラッガー



- ナノ -