知ってるか

結婚指輪を左の薬指にするのはそこから一本の血管が心臓に繋がっていて心臓に一番近いって言われてるからなんだぜ

あとよく指輪をチェーンに通して首から掛けてるやつもあるだろ

あれも心臓に近いからって理由らしい

あれだ
想い人と自分の心臓ごと繋いで縛ってしまいたい…つーみたいなやつだな



「へぇ。確かに薬指の話は聞いたことあるのう」

「だろぃ?まぁ俺はそういうの嫌いだけど」



ガムを膨らまし指輪の艶を見ながらそう答え、もふりとベッドもたれ掛かった

仁王がこちらを振り返ったため結った髪がうなじに沿っていたのが曲がっている


自由が奪われるのは嫌い

好きにできないのは嫌い

制限されるのは嫌い

縛られるのは嫌い


「お前さんらしいの」

「お前もだろ」


否定はせんと苦笑する横顔


「まぁ、仁王にならされてもいいけど」


次の瞬間に唇に温もり


「奇遇じゃの、俺もブンちゃんにされるならよか」


間近で聞こえる声

さらりと赤の前髪に白が紛れ込む距離にある彼の顔は穏やかで

頬を撫でる手のひらは優しい

ふにっと唇を押し付けて覆い被さる彼の首に腕を回す

すると腰と後頭部に手が回った

一旦離れるとまたすぐにくっついて

割り入ってくる舌は一通り口内を探るとすぐに引っ込んだ


「ぁ……ガム…」

「お預けです」


まだ味も香りもあったガムは彼の舌によって奪われそのまま紙に包まれ廃棄

あーあ、さよなら…無駄となったガム

なんてゴミ箱行きになっているのを見ていると仁王の背中が振り返り仕切り直しとばかりにずいっと近づいてきて、目の前に座られ口付けられた

噛みつくようなキスに、ああ、ガムのせいでそのまま雪崩れ込もうとしたのが台無しになったからちょっとふてくされてるなと頭の片隅で考える

少し顔をしかめてたし

そんなことで不機嫌そうにしていた仁王を思うと笑いそうになった

が、今度はぐいっとすこし強引に引き寄せられ


「開けて」


と口を開けさせられ先程より大胆に舌を絡めてきた


「ふっ…んぅ……」


唾液が流れ込んできてそれを必死に嚥下する

静かな部屋と俺の鼓膜に響くのは水音とこくりと喉が鳴る小さな音
聴覚がそれに犯され頭は蕩けて思考が曖昧になってきた

絡めて、擦れて、吸われて、なぞられて、甘噛みされて

いつからかこれは自分を煽る要素となっていた


(ほんと誰のせいなんだか……)


と目の前の詐欺師に思いを宛てる

ふとそんな彼の表情を見てみたくなって薄目を開けてみる

と、


「!」


ばちりと目と目が合う


(目ぇ開けてんのかよ!)


閉じてろよ、と視線に込めると相手の目は今のはたまたまじゃ、と返した。…多分。
そしたらふっと笑うように微かに彼の口角が上がった気がして

それに俺は仁王の伸びる一房の髪を、結構強めに引っ張った

かくんと上向きになった顔の角度のまま痛い、と下目で俺に訴える

こちらを見ているせいか多少睨んでいるようになってしまっているその目を俺は上目で睨み付けた


―――『ヤラシー顔』


コイツはさっきこう目で語った。これは絶対!必ず!

確信を持って変態、と見上げとガシリと後頭部を捕まれ深い口づけから逃げられないようにされ、何か嫌気がして腰を退こうとした

しかし後ろにはさっきまで凭れていたベッドがありそれは叶わず、あれ、と焦り始めているとさらに身体を押され仁王とベッドに密着され身動きが取れなくなっていた

悪戯をする時のように怪しい光を宿している仁王の瞳

最後の抵抗に彼の肩に両手をかけ押し離そうと力を込めた

しかしとなんとしてでも逃がすまいと俺を押す身体にぐぐっと力が籠り、なんとしてでも逃げようとする俺との力関係は悔しいが向こうの方が有利で

くそ、なんて思っていると


「!?」


鼻を摘ままれた

それでも尚貪るように動く舌にリアルに息ができない

ぷはっ、と息を吸おうとすると十分に吸い込む前にまた舌が口内を暴く

けれどそれも限界を迎えて

酸素不足のため軽く視界が霞んできた

腕に込めた力は弱まってきてでも必死にどんどんと彼の胸を叩く


(窒息死する……!)


でも、


それでもいいかも、なんて

愛する人とのキスで死んでしまうなんて素敵な最期じゃないか

ああ、キスで窒息死したいって詩人めいたこというバッカプルの気持ちがわかった

朦朧とする意識のせいかそんなことを考えてるしまう



「っは…!!げほっ…死、ぬ…っ!!」



そのとき、やっと解放されて一気に入り込んできた酸素に思わず咳き込む
奴ははぁ…はぁ…と涙目で顔を赤くして必死に息を整えてる前で


「キスで窒息死ってロマンティックやね」


とかほざきやがった

本日二回目、銀の尻尾を引っ張る

だけど思ったより力が入らなくて思いっきりやってやろうとしたのに、掴んだつもりの手は力なく引っ張るどころか髪から滑り落ちてしまった


「やけ、俺は窒息死は嫌じゃのう」

「……なんで」


同感してるのかな、とちょっと期待していたので軽くショックを受ける

少し寂しい思いで彼を見ると、身体を持ち上げられ抵抗に力を注ぐ間もなく簡単にベッドの上に押し倒された
シーツの海に波が立つように皺が入る

さっき掴んだときにほどけたのだろう、髪がさらりと自由に肩から流れ、ちゅっと触れるだけのキスを落とされた時に毛先が当たり擽ったかった

そしてじっと瞳をいとおしそうに見つめられる

真剣なような、でも欲望が見え隠れしながらも優しいそれに俺は弱い


「俺はブン太に溺れて死にたい」


くらり
ああもうバカ


「溺死希望ですか」

「希望です」

「俺の愛で溺死?」

「ブン太の愛で溺死。」


バーカ、恥ずかしいこと言うな

なんて顔を真っ赤にしながら言ってもお前はにやにやするだけだもんな
ほら現にもうにやにやしてるし


「じゃあ溺れさせてやるよ」

「やけまだ死にたくはなか。もっと溺れとる状況を楽しみたい」

「あっそ。つかもうお前何回も溺死してるだろぃ?こんなにも愛されてるんだから」

「さぁどうでしょう」

「……その変な余裕、奪ってやるからな」


挑発的に彼の首に顔を埋め軽く噛みつく

その際に服の中へ侵入してきた手が浮いた背中に這い、肌を撫でる

それだけで体温が上がり、快感が燻る

手の温もりとか、その指の冷たい指輪とか、触れる肌とか全てが愛しい

あ、やっぱり俺も溺死でもいいかも

……まぁとりあえず




「俺にもっと溺れろ」




逆に俺なしじゃ生きれないくらいくらいに











縛られ窒息し、溺れたい












110611

あれ
指輪の話だけだったのに勝手に広がった←
あとキス長いな




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