ガチャガチャ

ガヤガヤ


そんな人の声と物理的な何かがぶつかる音や触れる音でこの教室に溢れる

唐突に声が上がれば回りで笑い声が上がったり、焦り声だったり…
なんにしても騒がしい


―――家庭科室


不馴れなものも慣れているものもここで料理をしなくてはならない

そう、今は調理実習の時間


自分の恋人と言えば隣の調理台で女子や男子に囲まれ楽しそうにボウルの中をこねていた

出席番号順五人ずつで分けられてしまったせいで数は近いのにぎりぎり離されてしまい、残念ながら彼とは同じ班ではない

側にいれないのは少し悔しいが自分の班の作業には参加していないのでずっと彼を見ていることで満足しようとした

まぁ別に近寄っていってもいいが邪魔になるのは嫌だし
それに授業だからしょうがないかとも思える

人気者な彼の回りには人がたくさん集まる
ただ調理台もそんなに広くないし共同作業が多いだけにいつもより距離が近いのはあまりいただけない

それに赤髪の彼はケーキのみならず菓子、調理全般に強いのだから今時の子は興味や尊敬、そして作業の進行の頼りとして彼に近寄っていく

流石うまいね
とか
いつも料理してるの
とか
これどうやってすんの
とか

兄貴肌で頼られることに悪い気はしない様子の彼の班はどの班よりも協力的で作業が順調だった

うちの班とは大違い

こちらは女子が勝手に進めていってくれていて同じ班の男子とともにそれを傍観している

女子達も男子だからしょうがないと諦めているらしく何も言わない

慣れている手付きには見えないが下手に手伝うより彼女ら達だけでする方が効率はいいだろう

――コツッ


「こら、何サボってんだ」


軽く小突かれ声の方へ顔を向ける

そこには先程まで菓子作りをしていたはずの彼がいて


「ブンちゃん」


少し呆れているような笑みを浮かべている

なんだか久しぶりに彼を見たような気がした……いやさっきまでずっと見てたんだけども

ブン太は椅子に座っている俺に合わせて少し背を屈ませてこちらを見下ろす


「ブンちゃん似合っとるねその格好」

「だろぃ?」

「パッと見ぃ女の子にしかみえん」


おい、と突っ込むブン太はネクタイを取ったシャツにエプロン、三角巾と調理実習にありがちな格好

制服なので下はズボンだが、上だけ見れば女子に見えないこともない

有り得ないがもしも彼がスカートをはいていたら誰も彼が男ということを疑わないだろう


「ええお嫁さんになれるぜよ」


にこりと言えばあほ、と返される

なんて言っておきながらちょっと顔が赤くなったのを見逃さなかった

……ほんにかわええのう


「それよりっ!少し位作業やれよ」

「やって俺調理とかせんし」

「しないやつでも出来るように手順書いてあるだろうが」

「めんどい」


照れを隠すために唇を尖らせた彼だが、強制的にやらせるつもりはないらしくそんなに強くは言ってこなかった


「何かひとつ位料理できるようにしとけよ」

「俺には肉とブンちゃんが食べれれば十分じゃき」

「ばっ…お前なにさらっと言ってんだよ」

「プリッ。本当のことじゃ」


気がつくとまた赤くなっている彼

ピヨッ…今日は随分照れ屋さんじゃのう

にやにやと彼を見ればそれが気にくわなかったのかバシッと肩をはたかれた


「やだDV!」

「どこが家庭内だ!」

「え、ブンちゃん俺のお嫁さんじゃろ」

「まだ引き摺るか…!」

「………なってくれんの?」


少し悄気たようにすればう、っと詰まるブン太

演技だとわかっているのにそうなってしまっている彼に愛しさが湧いてくる


「と、とりあえず俺戻るから!」


くるりと背を向け隣の調理台へ向かう

………逃げた

さっきから彼の動作一つ一つが可愛く思えてしかたがない
そんな自分に内心苦笑していると彼が顔だけこちらを向いた

そして笑って


「俺もお前の分心を籠めて作ってんだからな。お前も心を籠めて俺の分つくれよぃ!」





…………。


「やる気でた」


なんて簡単に出たやる気は彼でしか起こせない

あんな可愛い事を言うなんて


(すっかり惚込んでしもたのう…)


愛しい彼のため作業に加わろうと班の調理台に近寄ったら女子三人ともに目を見開かれ驚かれた














(ブンちゃんありがと、おいしかったなり)
(はは…菓子だけじゃなく俺も頂いたにおーくんはさぞ満足だろうな)
(え、)
(え)
(じゃあ満足するためにおかわり)
(いや嘘嘘さっきの取り消し!)



110606




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