その約束のおかげか事件の後に体に仕込まれたせいか、飲みはするけど飲みすぎないようにちゃんと注意を払っているのだ

しかし………


(んー……これはヤバイんじゃないか……?)

「丸井ぃー!もっと飲めよー!!」

「そうだよ丸井くん〜」


ずいずいと酒を押し付けてくる酔っ払い二人


「いや…俺もう結構飲んでるし」


そう言って断ろうとしてもまだまだ飲まなくちゃ!と飲ませようとしてくる

頼みの綱である柳生は今席を立っていてここは自分で何とかするしかなくて

そんなに酔い潰れた俺をみたいのかコイツらは

多分男共は女子に幻滅させたいとか、女子は酔った所をチャンスとか各々の企みがあるんだろう

しつこい酔っ払い共の誘いに断り続けていると他の酔っ払い共がそれに気づき向こうに加担してくる
そのうち空気が俺に飲ませるような流れになり、流石に拒否をし続けるのも難しくなってきた


(……くそっ!)


柳生はまだ戻ってこない

もう無理だと判断した俺は机の下でこっそりと手を動かした






「丸井……君……」


柳生は戻ってきて早々に青ざめた

何故ならブン太の回りにはまだ片付けられていない大量の空のグラスが置いてあるからだ

お前ら弱ぇな〜、と騒ぐべろべろに酔っている声の主ともっと持ってきなさいよと喚く女がきっと彼の飲ませたのだろう

ちょっとやそっとの量じゃない

付き合わされた回りの人は一部寝ている者も入ればトイレに逃げてる者もいて…

弱くはないが酒に物凄く耐性があるわけじゃないブン太が酔わないはずがない

これは前の二の舞を踏みかけているんじゃないだろうか……


「丸井くん…?」


黙っている彼を心配したのかとある女性が近づいていく

柳生が危ないと彼女を呼び止めようとした時にはもう遅く


「きゃっ」


ブン太が彼女を壁際に押し倒した

……ああもうこの後が恐い

何がって……
彼の恋人がだ

大胆だな丸井!とゲラゲラ笑う酒豪二人とちょっと期待してる女子に殺意が沸く

柳生は思った
……もう、逃げたい



「丸井、くん……」


目を閉じる女の子に近づくブン太の顔

そして体ごと覆い被さり
…唇が触れる






「ストップ」







前に、ここにはいないはずの人物の声で制止が掛かった

ぐいっとブン太は後ろから腕を引かれ、呆然としている女子の上から退かされる


「雅、治…」

「ブン太帰るぜよ」


赤い頬にとろんとした目のブン太を引っ張り店の外へと連れていく

途中いいところだったのにと茶化す酒を飲ました張本人の足を蹴ることを忘れずに


「柳生、後は頼むなり」

「わかりました。お力になれなくてすみません」


申し訳なさそうに謝る柳生に、気にするなと声を掛け店を後にする仁王

二人が去った後、柳生ははぁ、と深いため息をついた

この後が大変だ

もちろんこの飲み会のこともだが……


「丸井くん…頑張って下さい」


あっちもあっちで、大変そうだ














「……………」


無言のまま、ただひたすらに家への道を進んでいく
家とは二人が住んでるマンションの一室
大学生になってからルームシェアをしているのだ
と、表向きはそう言ってある

店を出てから一言も喋らない仁王にブン太は不安を抱き始めた

出てすぐに求めたキスはさらりと流されたし、指輪をしてない方の手を繋がれ今朝のように音がならないことが不安要素となって彼を怖がらせる


(雅治に嫌われたかな……)


酔って火照る思考も肌寒い夜道を歩けば少しずつ冷めていって

そう考えると知らずのうちに目が潤んできていた

俺だって雅治以外とキスしたくないしそれ以上もしたくない
だから自分自身のためにも約束は守りたかった…

でも結局は守れなくて
仁王が来てくれなかったら危なかったのだ

知らない女に、雅治以外の人に自らキスを迫っていて

浮気する奴ととられてもおかしくはない


ついに自分達の家のマンションまで着き、部屋の扉の前まで来る

チャリ…と仁王が鍵を取り出す音が聞こえ、それを鍵穴へ差し込み鍵をあける

ガチャリと音をたてて扉をひらけば、力強く体を引っ張られ中へ引き込まれた

カチャンとしまる扉

その音が鳴る前に力強く抱き締められていた


「雅…治……」


後ろ手に鍵を閉めた後、後頭部を押さえられ唇を重ねる

触れるだけのキスや、啄むようなもの、噛みつくに息を奪い合うようなものもすれば優しく深いキスもした


「っは……!」


息を求め声を上げて大きく吸い込む

先程とは違う原因で涙目になり、彼を見つめた


「ブン太……よかった……」


安心したようなその表情

きっと俺が他の奴に口付ける前に駆けつけられてよかったとおもっているんだろう
もし俺が口付けたとして、酔いが覚めたあとに仁王に罪悪感をもってしまうことを彼は知っている

だから、俺のことを心配してくれてもいるんだ
仁王は優しい…から


「ごめん」


ぽつりと呟く


「なんでブン太が謝るん?」

「……約束」

「連絡してくれたじゃろ」


俺はあの飲んだくれ二人に絡まれている最中、机の下で仁王にメールを製作し送信した

助けに来て、と

だからあれを送っていなければ事故は防げなかっただろう


「それにブンちゃんの意思で飲んだ訳じゃないき、ブン太は悪くなか」


そう言って頭を撫でてくれる

仁王の優しさに心が締め付けられた


「うん…だからごめんだけじゃなくて……ありがとう」


仁王の胸に顔を埋める

すると添えた手が長い指に包まれ、小さく金属音が鳴る

それを聞いて嬉しくて顔がほころんだ

ゆっくり見上げると額にキスが落ちてきて、それがとても心地好くて目を閉じる


「欲を言うなら…」

「ん……?」


仁王が小さく呟いた


「しばらく飲みにいかんといて欲しい」

「うん」

「女子と会わんといてほしい」

「うん」

「俺だけを見てほしい」

「……うん」


こくりと頷く
無理があるものでも、彼の気持ちは分かるから…


「手繋ぎたい」

「ん」

「抱き締めたい」

「…してんじゃん」

「キスしたい」

「どうぞ?」


ちゅっとリップ音を立てて唇が重なる

名残惜しそうに離れるとこつりと額と額を合わせた


「今すぐ抱きたい」

「………ダメ」

「………」


何か言おうとした唇を、唇で塞ぐ

ただ一言


「ベッドに行ってからな」


と小さく微笑むと、了解と彼も幸せそうに笑った






彼が望むことは、俺も望んでいることだから


だから、約束も望みも叶えてあげたい













約束とキスと

















(今更やけどブンちゃん)
(ん?)
(ほんまに身長差変わらんね)
(……出てけ)
(えー…色んなとこにちゅーしやすくてええと思うんじゃけど)
(…………バカ)


110423
大学生パロで日常ということですがこんな日常どうでしょう!
キス魔なブンちゃんが好きです
いや何だかんだで仁王もキス魔ですが
指輪がぶつかって音が鳴るのは完全に私の趣味ですすみません




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