俺は幸村くんを尊敬している
それだけじゃなくて信頼もしている

部活メンバーも信頼しているけどその中でも一番。


俺が二年の時、なんの手違いかベタに体育館倉庫に閉じ込められた

暗闇は嫌いじゃないけど好きじゃない
だけど真っ暗な中にいると手が震えてきて、呼吸がくるしくなってきた

今までこんなことなんてなかったし、そんな自分に焦ってか俺は次第に取り乱していった

手が冷たくなり嫌な汗をかき、呼吸が更に苦しくなる

今思えばそれはパニック発作だったんだろう

携帯は教室にあったし助けも呼べない

自分に何が起こっているのかわからなくて怖くて怖くて……


『ブン太っ!!!』


その時助けてくれたのが幸村くんだった

体育から帰ってこなかったのを心配して探しに来てくれたらしい


『幸村、くん…』

『大丈夫ブン太!?』


そう言って駆け寄り震える冷たい手を握りしめてくれた

何も感じなかった手から温もりが戻ってくる

息も段々落ち着いていき、発作は治まった

そんなことがあってから暗闇は嫌いになったけど、俺にとって幸村くんは最も信頼を寄せる人物となった

その後視聴覚室でプロジェクターで映像をみる授業があった時も、一瞬真っ暗になる瞬間、大丈夫と手を握ってくれた

俺が真っ暗な場所にいかなくちゃならないときはついてきてくれたし然り気無く気遣ってくれていた

だから部活が遅くなり暗くなった夜道も怖くはあったけど取り乱さずにいれたのかもしれない
まぁジャッカルや赤也もいたんだけどな

とりあえず幸村くんは、俺の支えになっていた






けど、その幸村くんが……






「幸村くん!!!!!」





部活中に倒れた

倒れた彼の姿を見て体中が冷たくなっていく

怖かった
足元が崩れ落ちるような絶望感が襲ってくる


「っ……は、……ッ」


やばい……息が、苦しい













「丸井!!」

「ッは……!!」


声にハッとして息を飲む

汗がたくさん頬を伝い、髪と襟を濡らしていた

発作が…治まった…?

とくとくとまだ速い鼓動と深い吸い込んでいる呼吸が先程まで発作になりかけていたことを物語っている

汗のかく手のひらをぎゅっと握りしめ感覚を確かめる

大丈夫……治まった

回りは自分の様子に気づかなかったようで幸村くんの名前を叫び、救急車を呼ぶよう指示している

じゃあ誰が…?

そのときスッと誰かが横を通った


白銀の髪を靡かせる、長身の男


仁王 雅治……


「お前さんも倒れんような」


そう言って幸村くんの方へ向かう
仁王は他の部員とは違い冷静に彼へ近寄った

俺もその後を慌てて追う



その後幸村くんは病院に運ばれ、暫く入院することになった……












「幸村くん……」

「こら、そんな顔するな」


泣きそうな顔でもしていたんだろうか
ベッドで体を起こして座っている幸村くんが優しく頭を撫でた


「大丈夫。」


俺が?幸村くんが?
何が、なんて言わなかった

ただその一言で、俺はひどく安心したから


「丸井君」


柳生が俺を呼ぶ
先に病室を出ていた赤也やジャッカルや仁王が出てこない俺を見ていた


「今いく」


椅子から立ち上がると幸村くんに手を振る

幸村くんは柔らかく微笑んだ












いつもそんな笑みを浮かべていた幸村くん
倒れた日の朝も変わらず微笑んでいた

だけど彼は今、病気になって入院している

その微笑みを見て暗闇に、彼を頼らないように、強くならなくちゃ…


そう心から思った
















「ぁ………」


目をぱちりと瞬く

しまった、居眠りしてしまったようだ


「……!!」


ガタリと音が立つ

ロッカーにでも背中を打ったんだろう

……多分

何故多分なのか
それは室内が暗くて周囲が確認出来ないからだ


「かはっ…はっ…」


息が苦しくなる
明らかに自分の不注意だ

幸村くんに心配をかけないようにとはじめにけじめをつけたくて真田と柳に頼み、鍵を預かって残って練習をしていた

暗くなる前にそれを終わらせ部室に戻って…椅子に座ってから記憶がない

恐らく疲れて眠ってしまったんだろう

その間に日は暮れてしまい……

部室に差し込む光は一切なくなっていた


ガタガタと手が震え出す


「ふっ……くぅ…」


駄目だ
落ち着け
必死に息を正そうとする

そうだ
確かズボンに携帯を入れていたはず

震える手で携帯を取り出すと真っ暗な中に光が漏れる

震えている自覚はあったが、光る画面が異常に揺れており自分の手は予想以上に震えていることがわかった

大丈夫、暗くない…

自分に言い聞かせ呼吸の乱れを抑える


「電気の…スイッチ…」


携帯を明かりに慎重に歩き出す

ガコッ


「うあっ!!」


しかし足元にあった何かに躓き派手にこけた


「!!」


その拍子に携帯を落としたのか手元にそれはなく

しかも何かの下に滑り込んだようで頼りの光はなくどこにあるかもわからなかった

起き上がり体を抱き締める


怖い…怖い…!!


落ち着いたはずの息はまた乱れだし、体の震えが再発する


「怖い…怖い……っ」


このまま自分がどうなるか、この暗闇のように分からなくて

指先の感覚がなくなり、目に涙が滲む

いつも助けてくれた彼はここに来ることはない

だから強くならないと
そう思ったのに

なんて情けない結果だろう…


「っは、…はっ…ぅぐっ…」


息が苦しい…!


「……て、」


懇願する


「…す…て…」










助けて…!!!!!



















「丸井!?」










ガチャリと部室のドアが開く


「ゆき、…むらっ…く…?」


四角く光が差し込み自分を照らす

違う、幸村くんは名字で俺を呼ばない

声の主は自分に駆け寄り、呼吸がおかしい俺を抱き締めた

この香り……


「仁王…っ…?」


落ち着かせるように背中を撫でる手


「おん」


体温が無くなってしまったかのように感じた自分の体に温もりが触れる

それを逃がさないように必死に仁王へすがり付く

感覚のない指でシャツを握り、温もりを感じることで自分を落ち着かせた


「はぁっ…っ……はっ……」

「焦らんでよか」

「んっ…ごめ…っ…」


背中を撫でる手も、掛ける声も…いつもの彼とは思わないくらい優しくて


なんでだろう


幸村くんに手を握られるより

仁王に抱き締められるられるほうが落ち着くのは……













「ん、……ありがとう」


完全に息が落ち着き仁王から離れる

うわー男同士で抱き合って…ちょっと恥ずかしい

落ち着くためにはしょうがなかったにしても…うん、恥ずかしい


「大丈夫?」

「うん…もう大丈夫」


恥ずかしさを拭うように乾きかけた涙をシャツでふく


「そんなに擦ったらいかんぜよ」


そう言って手首をもたれ、目を擦るのをやめさせられた

その時合った目はとても優しかった


「……仁王、だよな?」

「………ピヨッ。柳生がわざわざ俺に化けると思おちょるん?」


いやそうじゃなくて……

いつもの仁王のイメージと違いすぎる

そうでもびっくりするけどこれが本人というのもびっくりすると言うものだ


「……丸井、暗いとこ無理なん?」


仁王が少し気まずそうに聞いた


「……うん。」


俺は体育館倉庫に閉じ込められた時のことを話した

それが起こるまでは暗闇は大丈夫だったこと
それからは暗闇が嫌いになったこと


「よぉ頑張ったの」


そう言って頭を撫でた


「俺は頑張ってない。幸村くんが手を握ってくれたから…」


ぴくりと撫でる指が反応した


「?」


だがそれは一瞬ですぐにまた撫でるために動いた

気のせい…?

なんとなく恥ずかしくてうつ向く


「丸井」

「…ん?」


名前を呼ばれ顔を上げる

先程とは違い、真剣な眼差しと交わり小さく息を飲んだ


「こんな時に言うのも卑怯なんじゃけど…












好きじゃ」










無意識に目が見開いた

あの…仁王、が……俺を?



「ずっと見とった…丸井がたまに不安そうにあいつに近寄って安心しとったのも知っちょる」


流石に手を握ってたのは知らんかったけど、
とちょっと声が低くなった気がした


「なぁ丸井。お前さんが不安な時、俺を頼ってくれんかの。」



そう言って仁王は俺を抱き締めた

また香る、仁王の香り


(……あ、やっぱり)



仁王の匂いは落ち着く

抱き締められると安心する

だけど同時に……



「なぁ仁王」



腕の中で呟く



「俺さ、お前にこうされるとすっごく落ち着くんだ。……幸村くん以上に。」


そういえばほうか、と上から返ってくる


「だけどさ、同時になんか……ドキドキする」

「……それって」

「このドキドキすんの…俺、仁王のこと好きなのかな?」


そう問えば、ふっと小さく笑いがこぼれた


「安心しんしゃい。そうじゃなくても、惚れさせたる」


自信ありげな言葉

……やっべぇ、今すっごくときめいた


「丸井」


唇に柔らかい感触


「好いとうよ……ブン太」


まわしていた腕の力が籠りぎゅっと抱き締められる










(……やばい…早速惚れた…かも)













先日、幸村くんが退院した

毎日お見舞いにいけるわけもなく、しかも大会があったせいでそれは疎かになっていて

しかも学校で彼をみるのは本当に懐かしく感じて朝から気分は高揚していた


「ブン太」


廊下で名前を呼ばれ振り返る

そこにはずっと待ちわびていた、幸村くんの姿があって……


「幸村くん…!!」


感激のあまり駆け寄り抱きつこうとした


が、


「ブンちゃん」

「わっ」


仁王に抱き締められ引き止められる

文句の一つや二つ言ってやろうとすると


「!!?」


キスされた

しかも離れる際に


「ブン太が抱きついてええのは俺だけぜよ」


とぺろりと唇を舐められた


「!!………!!?」


顔が熱くなっていくのが分かる

ここ廊下、だとか人前で、とか…驚きすぎてそんな言葉は声に出来ず。


「………見せつけてくれたね。仁王。」


声の方へ向くとあきれたように腕を組み……顔は笑顔なのに怒ってるオーラを漂わせた幸村くんがいた


「いや、あの…っ」

「ブン太は俺のもんじゃからの」


べっと幸村くんに舌を出す仁王

ああああああ!お前ッてやつは!!!

嬉しいけど幸村くん相手に言ってほしくなかった…!!


「俺が大切にしてきたんだ。あんまり調子に乗ってると……怒るよ?」


微笑みながらさらに怒りのオーラを濃くする幸村くん


「お前さんが大切せんでも俺だけで十分なり。出しゃばるのはやめんしゃい」


と笑いながら挑発する仁王



二人とも笑っているのに…間にはバチバチと火花が散っているように見えた

冷める周囲の温度

閉じ込めようと力が籠る腕

それをみて更に深まる黒いオーラ













あー………俺、すっげー逃げたい









(安らぎと、愛しさと)






















(やぎゅー!助けてー!!)
((ブン太!?))

(………私を巻き込まないで下さい丸井君)



110419
長い!
幸村とブンちゃんはnot恋仲
仁王には渡したくない幸村お母さん
男前な仁王とデレモード(?)なブン太
……再現出来てるかわかりませんがリクありがとうございました!
0420
改めて見るとよくわからないことになってますね
仁王は嫌な予感がして来たらこうなったって感じです多分




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