ある寒い日
吐く行きはうっすらと白く、それがどれだけ気温が低いかを示しているようだ


「さみぃ…」


そう小さく呟いてマフラーに顔を埋める
自分の体温で温まったマフラーは自分の頬と口から外気を遮断してくれたが、如何せん触れてない上頬と鼻先は冷たいままである


「ブンちゃん鼻赤くなってる」

「ん…寒かったからな…ぁー鼻痛い」


愚痴れば隣の銀髪は小さく笑って


「じゃあはよ入りんしゃい。なんか暖かいもん淹れちゃる」


と鍵を開けて自宅へと招き入れた
中は風がないことと暖房がついていた名残もあり断然外より暖かい
それは自分にとってとてもありがたいことで。
仁王の言う通り靴を脱いで室内へと踏み入れた


「あったけぇー」


マフラーとコートを脱ぎリビングのソファに座れば仁王がことりとローテーブルに湯気が出ているマグカップを置いた
薄茶色のそれは甘い香りを漂わせている


「ココア?」

「おん。甘めにしておいた」

「サンキュー」


一口飲めば広がるココアの香りと甘さ
冷えた指先で包んだマグカップから伝わる熱は、そこからほわほわと淡く全身に広がっていく


白い陶器のマグカップから口を離しホッと息をつくと、白銀の何かが横から入って視界を遮った


「………」


唇に柔らかい感触
触れるだけのキス

柔らかい熱が遠ざかり、代わりにこつんと額に熱の正体の額が触れる


「どうした」

「したかったからしただけー」


くつくつと笑う仁王
その度揺れる銀髪が額に掛かりこそばゆい


「んっ」


ぴとっと触れた鼻先
そこだけ他が触れたときより熱が高かった


「ブンちゃんの鼻冷たい」

「じゃああっためろ」

「鼻以外も?」


にやにやと意味深な言葉を吐いて含み笑いをする仁王


「バーカ」


決まったセリフ
もうこのやり取りは日常になりつつあって。

俺はマグカップをテーブルに置くと仁王の胸に擦り寄った


「んー」


俺は子供が甘えるように抱きつきその温もりを確かめる

ぎゅーっと仁王の服を握って、その暖かさに埋もれた


「今日のブンちゃんは甘えん坊さんやのう」


そう言って苦笑いしながらも満更でもなさそうに背に腕を回す仁王

ふわりと仁王の匂いと温もりに包まれた

心の生まれるのはとっても柔らかな、温かい…優しい気持ち

それを彼に伝えたくて


「仁王、」


俺、今とても幸せだ



呟いたその言葉は仁王の腕の中に吸い込まれて、鮮明に彼には届かない


「ん?」


実際に彼は聞き返し首を傾げている


聞こえないのなんて分かっててやったけど




もう、次は言わないからな








まさはる、あいしてる








そう口にすれば頭を撫でられた



「ブンちゃん」



名を呼ばれ顔を上げる



すると降ってくる、彼の唇



長い、キス



さっきと一緒で触れるだけのキスだけど心は満たされていく



ゆっくり遠ざかる柔らかい熱に名残惜しさを感じるけど、彼は俺を見つめてきて。



「愛しとうよ、ブン太」



その目はとっても優しい色をしていた





服を握っていた手を解き、仁王の首に腕を回す




近く目が合えば、どちらともなくまた近づく距離




啄むようなキスをしてそのまま、ソファの影へとぱたりと沈んでいった














110409

触れるだけのちゅーっていいよね!
最初は鼻キスさせたかっただけなのにいつの間にかちゅっちゅさせてました
後の二人はカーペットに横になってクスクス笑ってると思う





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