「んー」


お腹に腕を回し後ろから抱きすくめられ、肩に顔を埋められる


(あ、)


最初はこれが擽ったかったけど、今となっては嬉しくて心が擽ったい気持ちになる

だってこうしているときは


(仁王が甘えてる)


から。

いつも自分ばっかり甘えているように思っていた

けど仁王自身もちゃんと甘えている事に気づいたのはつい最近だ

ここで前を向いたまま腕を回して頭を撫で優しく何かを問いかけてやると、彼は更にぎゅっと俺を抱き締める


「どうした仁王」

「んー」


ほら、ぎゅっとした


「んーじゃわかんねぇし」

「ん」

「わかんねぇって」


小さく笑いながら言えば同じように返ってくる

本当は嘘
仁王がどうしたかなんて分かっている

ただ単に甘えていて、抱き締めたいだけ

コート上の詐欺師だとか言われているけど、コイツにもかわいいところがあるのだ


「なぁにおー」

「ん」


呼びかければ返す
一応話は聞いているようだ

だけど俺自身は特に用もなく呼んだわけで


「なんでもねぇ」


だからクスクス笑いながらそう答えた

こちらから言わせればただ単に呼んでみただけ

一人笑っていると肩に埋もれた仁王の唇から言葉が漏れる
湿った吐息が肩に当たり生暖かい


「なぁブンちゃん」

「んー?」

「ずっと離れんで」


ぎゅっと腕の力が籠る

不安に思っているんだろうか?


「ぷっ」


そう思うと笑いが溢れた

肩を震わせて笑う俺に仁王が不機嫌そうに声を低くする


「なして笑うん」


あくまでも不機嫌そうなその声は、低くてもどこか甘えてる口調で

そう、拗ねたような感じ


そんな仁王に俺は子供をあやすようさっきみたいにまた頭を撫でる


「こんな甘えたのお前から離れたくても離れられるかよ」


そして顔を彼の方に向けニッと笑った


「ブンちゃん…」


唇にふに、とした柔らかい感触

瞬時に閉じた目を開ける

彼も同じように笑顔だった



「絶対離さんぜよ」



俺以外他の誰にも見せない、この笑顔



「俺も絶対に離さねーからな」












(その笑顔を他の誰かに向けるなんて、絶対に許さねぇ)

110409




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