▼ 05

幸い処置が早く、的確な行動が功を奏したようで痕も残らない程度になると医者は告げたので、シエルは心より安堵したので字の如く、胸を撫で下ろした。
ベッドに横になって休むセバスチャンの様子を伺いながら椅子に座って、替えの包帯を目で確認しながら、そっと拳を握り締める。

トントン・・・

小さくノックをして、そっとタナカが入ってきた。セバスチャンをチラリと見やった後、シエルに尋ねる。
「坊ちゃん、準備は整いました」
「・・・そうか」
一息間を置いて、愛する忠犬を見ながら続ける。
「あの鏡は明日朝一番に破棄してくれ」
「畏まりました」
頭を下げて、ドアをそっと引いて消え行く気配に、少しだけ空を見やる。
「坊ちゃん・・」
名を呼ばれてハッとする。布団に包まれながら、セバスチャンがこちらを見つめていた。大きめの息を吐きながら、そっと近寄り布団を治しながら言ってやった。
「バカめ、寝ていろと言っただろ」
「悪魔は夢を見ないんです」
ニコっと、不安にさせまいとしているのだろうか――いつもの可愛い笑みを浮かべて、そう小さく言う。
「明日はゆっくり休んでいい。替えの包帯も用意した、他の事は何も考えず休養しろ」
「ですが坊ちゃん」
「命令だ。休め」
これでもか、と眼帯に手をやりながら制した。ここまで言わないと分からないから、最後の手段のように言い放つ。これでも物凄く心配しているのだ、こっちは。

―――従順に教えすぎた自分の所為か?
「はい・・」
「よしよし」
どちらがしっかりせねばならんのだろうか、と、客観的に見て自嘲しながら、頭を撫でるとセバスチャンというこの可愛い生き物はにへらっと笑みながら、促して出した布団からの手を、温かく握り締めた。

その後何もなく、目をつぶってじっとするセバスチャンの頬に触れるだけの口付けを交わして部屋を出る。本当はもう少し側にいてやりたいが、気になる事が一つある。タナカに呼ばれる直前に手にした手紙の事だ。
執務室に入り作業の続きに入る。

――お前の為ならば、平気に嘘をつける人間にもなれる。

手紙の中身をもう一度読み返して、愛犬が休む部屋の前で一歩足を止めて躊躇した。そして歩き出す。確認しなくてはならない事が一つ出来た。それを確信にするまでは、セバスチャンには話せない。
そういう事情ができた。


心配するな、ボクにも出来る事ができた。

お前の為に、少し無茶をしてもいい。


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