▼ 02
夢だと思っていた。
鏡を奇妙に思うが余りに己が作り上げた幻想に過ぎないと。
目の前に、己がいるのは「夢」という人間と動物しか見ない幻想を擬似体験しているだけなのだと。
「あなたのような私の理想に合う方が映ってくれて嬉しいです」
さっき自分は「冷たい笑み」と解釈したが、これには、冷たいなんてないのだ。見た目冷たいように見えるが、これは温度はない。温かみも冷たさも、よく見てみたらないのだと分かった。微笑んでいるのに温度が分からないなんて、そんな事は果たしてあるのだろうか。セバシチャンは珍しく畏怖を感じ、伸ばしてくる手袋をはめた手が頬に触れるのを怖がった。
「さぁ、私にあなたをよく見せて下さい」
自分と同じ口調で自分と同じ姿で、自分と同じように微笑む相手は。
とても、気味の悪い化け物に見えた。
あぁ触れられる、と刹那の後唇が重なって。呆然とした直後に肩を掴まれた。
グルン!と身をよじられて壁に手を突いて衝撃を抑えたがそれしか出来ず。思わず次に触れられた場所に驚愕した。
腰からそっと脊椎を沿うように、その手は臀部に行き渡ったのだ。同じ顔をした相手に、今、思いがけない場所に手を添えられている。
「何、を!」
更なる声を張り上げようとしたものの、強い力で口元が抑え込まれた。なんて力だ、人間よりも能力が長ける己が振り払い抵抗さえも出来ないのだ。こんな事があるなんて、長生きをしていて初めての事だ。駄目だ、振り払えず声も出せぬ。只触れられて揉み握りされての好き放題をされるなんて。
悪魔としてのプライドもズタズタだ。
「綺麗な黒とひときわそこで映えるのはワインレッド。まるで赤い月・・・・いいえ。年代ものの上質なワイン。それも、とても芳醇された熟年ものの高価でこの世に一つしかない高嶺の花の存在」
髪の毛に鼻を突いて、耳元でそう囁かれ、甘い吐息に背を反らせた。こんな事、あってはいけないのだ。己は悪魔だ、人よりも能力が長けた能力者なのに抵抗が出来ない。汗しかにじまない悔しい時の中、セバシチャンは唇を噛んだ。
「ほら・・・ここも熱を帯びてきて、いけない人。同じ顔に攻められて、ピクピクと身を起こす等。なんて堕落した方なのでしょうね・・・」
臀部をまさぐっていた手は前へ移動する。じわじわと骨に沿うかのように、硬い場所を探っているのだ。臍を突き、ベルトに沿って、放射線を放つ皺を堪能しそこへと導かれてしまう。
「っ・・・・!」
「あぁ綺麗、なんて華麗な形をしているのでしょうあなた。昼間の光の中で、人間達に囲まれているあなたを見かけた時は・・・こうして触れられるとは夢にも思っていませんでしたよ」
夢なんだ
これは夢だ
人間が言う夢に違いないのだ
優しくラインを堪能しつつ強い力で時折突かれるこの感覚は、夢という幻想に違いないのだ。ベルトを外され、チャックが引き下げられてしまいこんでいるワイシャツを引きずりスラックスを引き摺り下ろされる感覚も全てが夢に違いないのだ。
「高嶺の花は、孤高に垣根を越えて山を上がっても届かない場所にある高潔なもの、ですがこの高嶺の花は、とても低い平地にあったのですね」
クスクスと口の中で笑い、喉を鳴らして楽しむ同じ声に思わぬ悪寒を感じ、セバシチャンは突かれた。口を抑えられているのでくぐもった空気しか出てこない。声が出せない苦しい中で、機能として使わない秘部に挿入を受けて壁に手を添えて。それ以上身が壁にぶつかって音を立てぬよう、身をこすらぬよう手に力を込めるしか出来ない。下半身を中心に伝う電流のような往復するジンジンとする痛みをこらえながら只なすがまま。
「あなたの穴がキュウキュウと私を締め付けて・・・あぁなんて気持ちの良い・・・」
こみ上げる痛みは快感へと代わり、先に果てられて一気に熱が体内に侵入してくるのを感じた直後。
彼は意識を失った。
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