▼ 08

薔薇の散り際を浮かべる。
月夜に青く照らされた肌の上には、薄暗い光に少しくすんだ跡がそこらへんかしこに散っていた。これは青白く照らす月を見上げる薔薇が散った形なのだ。激しく

激しく求めてくるセバスチャンに自分もつい答えてしまった。ついで、その未成熟の体ではすぐに体力は消耗してしまうので、ほんの少しの魔法を施して貰い、こんな夜中にまで長引いてしまったのだ。お陰でセバスチャンは本当に眠ってしまっている。悪魔という存在は、どうやら万物の象徴とか、神とか、そんなものではないらしい。力は使えば消耗されるし、自分と契約を結ぶ間は最大の体力や魔力の貯蔵や回復に繋がる「食事」も摂らない故、使えばなくなるものを補う為回復をしなくてはならない。以前と比べて少し肌の白が増しているようにも見えるが、それは「食事」の事と繋がるのだろうか。それとも今回の事と・・・。細くて黒い、この繊細な髪の毛に指を絡める。すらぁっと、しなやかにどこにも絡みつく事無く髪の毛は自分の指と指の間を出て行った。長いまつげの上に軽く唇をあてがうと、くすぐったいのか「うん・・・」ととても小さな小さなか細い寝言のような返事をして胸元に擦り寄ってくるのだ。
猫が好きなのは知っているが、こいつが猫のようだ。と自嘲して頭を優しくなでる。
「シエル様」
夜の間、この時間だけそう呼ばせている。寝ぼけ眼のセバスチャンは、シエルを見上げてそう呼んだ。額にちゅっと音を立ててキスを落とすと、またきゅっと目を瞑ってまた視線を絡める。キスをされて少しセバスチャンは満足そうにしていた。
「汗をかきました、シャワーを浴びて参ります・・」
「あぁ」
短い会話を終え、ワイシャツだけを身にまとい重たそうな腰を上げてベッドから降りる。あんなに求め合い、愛し合ったにも関わらずまたもやゴクリと喉を鳴らしてしまう。見えるか見えないかな程の臀部がチラリチラリと見え隠れして、ハッとしてシエルは手で目を覆った。
「嗚呼・・・あれは反則だ」
何も知らないセバスチャンは一度シエルを見やったが、シエルに「早く洗って来い」と制されて少し恐縮しながら浴室へ消えた。
「可愛い・・・・僕ももう少し大人だったら・・・」
いや、自分が成長してもまだセバスチャンはあのままだから大丈夫か。と自問自答すながら、シャワーの音に耳と傾けた。

明るい浴室に生える花弁に赤面する。
・・・つけすぎだと思うんですけど、と。

―――そうですね、確かにつけすぎだと思います。

喉を鳴らした笑い声が小さく聞こえた。ゾクリとして振り返ると、誰もいない。
またあいつが?と周辺と見渡してみるもはやり誰もいないのだ。

張り詰めすぎているかも知れない。記憶に新しい陵辱が濃く強く残されているせいだ、と。

―――存外、感じていたくせに。

やはり誰かいる!
強めに闘気を上げて中央に立つと、ビチャッと足が湯に沈んだ。
シャワーから流れる湯が排水溝に流れていないのだ。排水溝に何かが詰まっているのか、すぐに処理をしようとしたが何も詰まっていない。

これは力だ。あいつは自分の力で湯が溢れ流れる場所を探す湯を閉じ込めているのだ。
パッと電気が消える。真っ暗な闇の中シャワーは流れ続ける。シャワーを止める為に探すが見つからない。
少しずつ、目が慣れてくると青白い月夜の光を頼りにシャワーを見つけた。だが、いくらひねってもシャワーは止まらない。キュッキュッキュと軽い音が響くだけ。たまってゆく湯が月夜に照らされた。

そう、床が鏡のように自分を見ている。
また笑っている。あの時のように。
自分は全裸なのに向こうは燕尾服を着ている。

自分を見つけたのが嬉しいのか、鏡の向こうのセバスチャンはそっと動いて床から手が伸びた。

「床が濡れているので私も濡れてしまいました・・・でもそれはそれで良いのかも知れませんね」

あなたも湯に濡れて輝いている。

「いっ・・・!!」

痛みが首元に走った。
牙の生えた歯で噛みつかれていた。歯と爪とは、人類はじめに持つ最も古い、原始的な武器だ。一番身近な武器が自分の首に突き刺さり、肉を抉り血を求める。
吸血男爵が女の生き血を求め噛み付くように、この絵は自分も自分と同じ姿のあいつに同じ事をされているのだ。
「あ"っ・・・ぐぅ・・・」
「美味しい・・・」
素体の肌の上に一筋鮮血が流れる。あいつはその肌の上に流れる血を、下から舐め取って胸の先へむしゃぶりついてきた。まだ感度が上がったままの肌だ。不本意に感じて吸われる乳首に電気が走る。それをこいつには悟って欲しくなくて、口を閉ざして息を止めた。
「何時間もの閨事に感度がいい・・・」
声を上げようにも、あの強い力口元を制され身動きが出来ない。不覚だった、床に湯を張らせて鏡にするとは。
「あなた・・・まだ自分が何か出来るとか、抗えるとか思っています?あなたの力は私も使えます。あなたの腕力で押さえているのだから、あなた以上の力があなたにあるなんて無いんです」
後ろからうなじを愛撫されて、指先が挿入されたら「ああ」と後ろで笑って見せた。
「何時間も大人の姿で、命令とはいえ達した後もすぐに活力を与え・・・何十回もあんなにされては」
広がってガバガバになりますよねー・・・と。
それならこちらも、遠慮も前戯もいらないと独り言を呟いて即座の挿入をされた。
嗚呼駄目だ感じてしまう。咄嗟に口が解放されたかと思うと、次はあいつのタイが口に絡みつき、能力できつく結ばれ何も言えなくなった。
こんな事があっても良いのだろうか、こんな使い方であってはならない筈なのにと苦悶の色を滲ませながらセバスチャンは後ろから突いてくる自分と同じ顔の奴を睨んだ。
せめてもの抵抗だ、両手を片手で拘束され、ペニスを扱きながら器用に押さえいる奴へ。
こんな事では屈しないと強く心の中で叫ぶ。
拘束された口ではくぐもった声しか出せない。
腰をぶつけてくるたびに乾き始めた髪の毛が激しく左右に揺れ、頬、鼻、目にぶつかる。この激しい動きの中、ただ後ろにいるあいつを睨んで怒気と威嚇の意で見てやる。
それを面白く思ったのか、それとも癪に障ったのかニヤリとした後の事。突然奴の性器の大きさが変容した。


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