▼ 06

あれから数日が経過した。何とも無い、ごく普通の、以前と同じ日々が時計のように始まってくれた。シエルから見ても、セバスチャンは何とも無い。あの鏡の忌々しさをこのファントムハイヴ邸から引き剥がしてからはいつもの風景が戻ってくれたのだ。

一日、朝が始まり部屋に愛しい悪魔が朝食を運んで入ってくる。カーテンを引いて朝の日差しを浴びせながら、逆光に映えるのは美しく整ったいつもの顔。素晴らしい一日の合図のように、ニコリと微笑んで声をかける。
只、他の人間と比較して異なる箇所があるとすれば、朝の日差しと共に彼の薄く整った唇が頬にそっと触れてくれる事。そして夜、草木も寝静まるのと共にいつものように呼びつけた彼が、白いシーツの海に自ら手先を伸ばして触れて沈み、身体を重ねて熱を生み出す事。ひんやりとした人が乗らない箇所に伸ばした手足を己の熱で温め文字通り熱い夜を過ごす事位。
顔は紳士淑女に見立てておきながらも、影ではえげつない事に興味を抱く他の人間を尻目に、自分はそれ以上の世界を知っている。

シエルはおやつに出す素晴らしい仕上がりのケーキを運ぶセバスチャンを見上げてフッと微笑んだ。セバスチャンにはその意味は恐らく分からぬままだと思うが、それでいい。
このまま暫く、この生活でいたい。このまま終わらなければいい・・・復讐を終えその代償に捧げる魂を、彼に食われるまでずっと同じサイクルで。
「坊ちゃん」
一言、最高の思考に浸っていたシエルを察するかのようにセバスチャンの言葉がそっと添えられた。喉を鳴らして曖昧気味な返事をして、セバスチャンを見上げる。
「女王陛下からのお手紙ですよ」
「ん」
いつものように大量に届いた手紙の中から、女王の手紙を引き抜いて手渡される。手紙を受け取るのと同時に、さりげなくシエルはグローブに包まれたセバスチャンの指先を絡めた。
「もう、坊ちゃん!」
「何だ赤くして。レディじゃあるまいし」
「お仕事とプライベートをきちんと分けて下さいよ」
可愛い奴。こんな些細な事で思った通りの反応をしてくれる。愛くるしい奴だ。

しかし、女王からの手紙の中には少々面倒な文面が綴られていた。とある館の中で奇妙な現象が発生しているらしい。それだけならばまだしも、関連するのが壁掛けの鏡なのだそうだ。シエルはそっと眉間に力を込めた。女王からの要請は全て片付けたい。だがセバスチャンのあの怖がりようと見た後でこのような奇々怪々現象の実態調査とは。
「やはり気になるな・・・」
「は?」
「いや、こっちの話だ」
セバスチャンは途端に機嫌が悪くなって、それに気が付いたシエルは軽いため息を吐く。
「こら、言いたい事があればハッキリ言え」
「坊ちゃんが私に内緒ごとをしています」
「まだ未確認だし確証もないからだ。別にお前に内緒にしている訳ではないし、見るからに分かるような不機嫌な態度をするな」
「未確認の事とは?」
「えっ・・・いやその・・・」
「ほら、私に内緒ごとです」
「あ!いや、セバスチャンこれは・・・こら、まだ話が終わっていない!何処に行くセバスチャン!」
少し癪に障るのが、このあからさまな嫉妬する態度だけなのだが・・・。


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