この世の地獄、あの世の浄土
薄雲もない明るい夜。 連なる屋根を照らす月は立ち姿を地面に落とす程なのに、それは微かな光すら塗りつぶすよう深く黒く、闇を広げていた。
「お嬢さん、こんな夜中にどこ行くんだい?」
濡れたように艶やかな長い黒髪を風に預けながら、その女はゆっくりと振り向いた。
「…そうね」
女が足元に広がった暗い穴を見つめた。 蠢く黒が絡まるように女を包み、段々と幾本かが人の手のように形をなして、優しく女の頬を撫でた。
「…ここへ行きたいの」
けれどね…と続けて、女はその闇に膝をついて覗きこむと、ついた手が幾分か沈むのが見えた。
「どうしても行けない…行けないの…なんでかしら…行きたいの…」
譫言のように静かに繰り返しながら、その闇に手を何度も何度も沈めて女は届かない願いを空気に霧散させていく。
「ねぇ…貴方は知っているのでしょう?教えて…ねぇ」
「知らない」
「嘘」
そちらへの行き方を、この隔てるものの取り払い方を、お前ならわかるだろうと、そう訴える女の瞳は暗く静かで、足元に広がった闇のようだった。
「帰んな、お嬢さん。あんたには、無理だよ」
あんたが会いたい人は、そこにはいない。
「わかってるんだろう?」
その黒い手の中に混じる白い手。 闇に飲まれてもその持ち主が現れることも無ければ、そこに彼の人の温もりは無いって。
だってそこはただ、ただただ暗く、寒くて凍えそうな深い深い闇しかないのだから。
人として死んだ彼の人はきっと別のところに居る。人が、人として死んだ者が行き着く所に。
人が入れない領域に足を踏み入れてしまったら、戻れない。自分のように。
「だから帰んな、お嬢さん」
そこで話は終わりと言うようにひらひらと手を振った。 虚ろに此方を見つめる女に背を向けて、ゆっくりと歩くように自分の影へ足を沈ませる。
視界が見慣れた闇で閉ざされる一瞬、女が彼の人を呼んで泣いている声が聞こえた気がした。
だって、
だって、あの日いくら探してもここにあの人は居なかった
----------------あとがき
オチが行方不明\(^o^)/
すみません、ヤマダです。 とりあえず市と佐助の話です。大阪夏の陣より後かな!あの日ってのは多分旦那が居なくなっちゃった日かな!
場所は適当でお願いします。すみません、嘘です。 あれかな、誰も居ない真田の家かな!誰も居ない家にずっといる佐助と、たまたま彷徨ってた市かな!(やっぱり適当
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