Mother's Day




からっと晴れた五月のある日。

少し熱のこもった空気に初夏も近いなぁと、何処か遠くに思考を飛ばしながら思った。

立派な木の枝に腰掛けて、広く拓けた風景を見下ろす。
旦那と大将がさっきからせっせと右へ左へと走っていた。

「佐助!」

「はいはーい」

ぼーっとしていた意識がもどると、目の端に布に埋れた旦那をとらえる。

「佐助、これを洗いたいのだが盥は何処にあるか知らぬか?」

あぁ、それはね…と言って盥のある場所を思い出す。伝えようと言葉を考えるけれど、途中で旦那にはわからない場所だしな…と途中放棄した。
持ってきた方が早いと動いたら、下から待ったをかけられる。

「場所を教えてくれればよいのだ!」

「んー、でもなぁ…」

旦那、場所わかる?と目線をやると、任せろ!と言わんばかりに返された。その自信がなんとも不安だ。

仕方ないと諦めて盥を仕舞ってある納屋を教えると「あいわかった!」といい笑顔を残して去っていった。

その背中を大丈夫かなぁと見送っていると、今度はもっと大きな陰が近づいてきた。

「佐助!」

「おや、大将。どうしたの、こんなところで」

見ると襷をかけた大将が此方を見上げていた。

「いやなに、少し聞きたいことがあってなぁ」

聞きたいこととはなんだろうと、腰をあげるとそのままで構わないと止められた。主の上司を目の前にそれもどうかと思ったがすぐにまぁいいかと座り直す。

「で、どうしたんですか?」

「米の場所を教えてくれんかの?」

「米、ですか?…それなら奥の蔵にまだあるはずですけど…」

何に使うんだ?と言葉にならない疑問に、大将はにかっと笑って「まぁ、楽しみに待っておれ」と、これまた言葉にならない返事をくれた。

諦めたように「はいはい」と返すと、楽しそうに大きな背は遠ざっていった。

「まったく、2人揃って何をしてるんだか…」

実は、今日は朝から何にもしていない。
いや、正確にはさせてもらえていない。

何を急に思ったのかまはわからないが、ご飯の仕度をすれば怒られ、掃除をしようとすれば雑巾を凄い勢いで奪われた。

えー?何か理不尽じゃね?とか思ったけど、とりあえず何もさせてもらえず、代わりにせっせと働く旦那達を眺めるという穏やかな五月の一日を満喫しているわけだ。一応。

『いや、普通は忍がやることじゃないからね?やらないのはね?別に変なことじゃないっていうか、むしろそれが当たり前っていうか…!』

誰とはなしにそんな言い訳めいた言葉が浮かぶが、本来することではないのは事実だ…事実だと思いたい。

まぁ、それはおいて置いて、だ。
朝から2人で何やら楽しそうに家事をやっている。最初、どっかに頭でも打ったんじゃないかと本気で心配していたら、部下がこっそり近づいてきて理由を話してきた。

「今日は長のことを労う日なんだそうですよ?」

内容もさることながら、それを話す部下がこれまた楽しそうに「良かったですねぇ、長」と話すものだから、なんとも恥ずかしくなって居た堪れない気分になった。

そんなことしなくていいのにと伝えようと思ったが、何となく言える雰囲気ではなくずるずると今に至っている。

正直、自分がやった方が数倍早いし、家事に不慣れな旦那達を見ているというのははらはらとして心臓に悪い。本当やめてもらいたい。

が、しかし、まぁ。

『自分のために何かしてもらうっていうのも、悪くはないかな』

今日はまだまだ長いから、俺様の心臓が保つか心配だけど。

とりあえず今日の終わりに2人に感謝を述べる準備だけはしときましょうかね。









「さーすけー!竿は何処でござるかー!」

「飯が炊けたぞー!」

「はいはーい」

振り返ったら貴方たちが笑ってくれてる。それだけでいいんだけど。

『これは口が裂けても言ってやらない』






------------あとがき

皆様お久しぶりです!ヤマダです!生きてますよ!


おもっきし遅刻ですけど母の日です。ちょっと迷走しましたけど、楽しんでくれたらこれ幸い。