だから常春




昔、もう何時のことだったかわからないけれども春。
桜の花びらが風に乗って緩やかに、殊更ゆっくりと地面に落ちていた。そんな日。

長く続く屋敷までの道を、二人でゆっくりと歩きながら作った影は二つとも幼くて、暖かな陽射しのせいか影すらどこか春めいて見えた。

「佐助見ろ!桜が見事だぞ」

少し後ろを着いていく俺を旦那が何度も振り返っては、あぁだこうだと話す姿が一生懸命で、その声がまた一々名前を呼ぶものだから何だか気恥ずかしくて、くすぐったい。

「はいはい、綺麗だね。わかったから、はしゃいでないで前向いて歩く!!」

でも、そう言った自分の声が何時もより軽かったのは、自分も存外はしゃいでいたからなのかもしれない。

『いけない、いけない…』

元より、誰かを頼る気でいるわけではないが、今は一人。自分以外、旦那を守る者は居ないのだからしっかりしなければ…と一人自分を戒める。

『…だけど』

一人立ち止まって、揺れた空気に乗った春の匂いに瞼を閉じると、やっぱり心が騒いでしまう。

「佐助?どうした?」

俺が急に立ち止まったからか旦那が駆け寄って、心配そうにこちらを覗き込む。

「んー?何でもない何でもない」

だから心配しないで。ね?と小さな手を大事に包み返せば、少しだけ不安を残した顔で、それでも「よかった」と言うように笑顔を向けてきた。

ぎゅっと、一際力を込めてから離れていった小さな手が、また数歩前を歩き出す。

「佐助、今日の甘味は何だ?」

「んー、何にしようか?」

答えなんてもうわかっているけれど、何とはなしに聞いてみる。

そしたら、やっぱり答えは何時もと同じなわけで。振り返った顔をきらきらさせて「団子!!」と返ってきた。

「あ、そう言えば昨日作った葛餅がまだあったなぁ…」

態とらしく考える素振りをしてみる。今自分の顔を鏡にでも映したら、この上もなく意地悪い顔だろう。

にやにやとして旦那を見れば頬を膨らませて、全身で嫌だと言うふうに「団子!!団子!!団子以外食わぬ!!」と駄々をこねた。

「俺様が作った葛餅そんなに食べたくないの?」

「頑張って作ったんだけどな〜」なんてつけたら、むくれた旦那が悔しそうに唸る。

「…………………たべる」

観念したように絞り出したといったような声。その言葉とは裏腹に、顔には団子とありありと書いてあるのがわかった。

本当は団子と言いたくて仕方がないのに、顔を真っ赤にしながら我慢する姿が何だか可笑しくて、笑ったらいけない状況が余計に可笑しくて肩が震える。

『お馬鹿さん、息まで我慢しなくていいのに。顔真っ赤にしちゃって…あぁあ、変な顔』

こんなことを言いながら、きっと自分は帰ったら旦那のために団子を作るんだろう。そう思うと、なんだかまた笑えてきた。

『はぁ。本当、しっかりしなくちゃいけないんだけど…それでも今は』

何時も前を行く小さな背中が、何時の日にか大きくなるまで。

さっき握った小さな小さな手が、大きく大きくなるその日まで。

俺様が旦那を守ってみせるから。

だから、今は一緒に笑っていたい。

『だってきっと』

心が騒ぐのは春だからなんかじゃなくて



『旦那の笑顔が一緒だから』








おわり

-あとがき---


久しぶりに書きました…。

今回は弁丸と佐助です。何処と無く書いてて「あれ?佐弁?」とか思っちゃったんですが…どうですかね?ちゃんと弁佐ですかね?(聞くな)

あ、表記でずっと「旦那」って書いてるんですが、佐助には幸村を旦那って呼んでて欲しいなというヤマダの願望の表れです。でも、ちゃんとした場では「弁丸様」呼びだと信じてます。(どうでもいい願望)

幸村は佐助の事を気にして葛餅を食べるって言うんじゃなくて、佐助のだから食べるんだと思います。佐助が作ってくれた物だからこそっていうやつです!!(どうでもいい補足)

あと、弁丸は佐助に対して「何時か俺が佐助を守る。かならず強くなってみせるから、それまで待っておれ」的なことを思っていたらヤマダ大変です(すでに頭が大変です)


ではでは、楽しんで頂けたら、これ幸い。