あとちょっと





夏休み。

広い広い旦那の家の、旦那の部屋で旦那は宿題をやっていて、俺は旦那の隣に寝そべってゲーム中。
時々、静かな部屋に風が吹いては、風鈴の音が部屋に広がる。

紙越しの、テーブルを叩く鉛筆の音が耳に心地良くて、いつの間にかゲームに集中していた俺には、旦那が何時鉛筆を投げ出したかなんて気づかなかった。
呼ばれた時には投げ出していたっていうのは確実なんだけどね。

「なぁ佐助」

「…んー?」

呼びかけられるのと一緒に足を揺さぶられたけど、手元のゲーム画面から目が離せない。

「佐助」

「んー?何?」

もう一度呼ばれても状況は変わらなくて、むしろさっきより画面の中は大変なことになってるから目がますます手元だけ映す。

「佐助」

「だから何ー?」

先を促してはいるけども『今紅い武将が大変なんだよ旦那。もうちょっとで敵将倒せそうなんだ』って、伝えるのも難しいくらい大変な状況で、発する言葉は全部上の空。

「さ す け」

それでも旦那はしつこく呼ぶし、ももの辺りを突かれたら流石に何かあるのかなって思って隣に座りこんでみたら今度はだんまりだ。

『もう、なんなのさ』と思いながらも、結局は紅い武将が敵を倒すまでは俺も顔を上げられなくて、やっと旦那の顔を見れたのは"勝利"って文字が画面に映し出されてから。

「で、旦那。どうしたの?」

これで心置きなく話しが聞けるぞと旦那を見ると、その顔は些かむすっとしているように見えた。

「やっとこっちを向いたな」

やっぱりむすっとした顔つきで出された声もむすっとしていて、不意に伸ばされた手は真っ直ぐ俺の手元へきて、器用な親指はかちっと音を鳴らせて画面を暗転させた。

「あ!!まだセーブ!!…ひどい!!やっと倒したのにー!!」

「そんなにゲームが大事か」

ひどいひどいと訴えれば、むすっとした旦那の顔は拗ねたようにこちらをじとって睨んでくるし、全く話しが噛み合わない。

「もう!!ここまでくるの大変だったんだよー?どうしてくれるのさ!!」

どうしようもないことだけど…どうしようもないからこそどうしてくれるのさ。
旦那だって少しはゲームやるんだからこの気持ちわかるでしょ?って目で訴えても旦那の表情は拗ねたままで、平然と口を開いちゃうんだ。

「佐助が悪い」

それがまた、どうしてそうなるかわかんないから質が悪い。

「何でよ」

「ゲームに夢中になってる佐助が悪い」

ほら、理由を聞いてもわかんない。
だいたい、それを言うならもっと肝心なことがあるんじゃないって思うわけだ。

「旦那が『勉強してる間、ゲームでもしててくれ』って言ったんじゃない!!」

そこのとこ忘れてるんじゃないかと少し睨んでみれば、やっぱりさっきと同じ顔でこちらを見ている。

「でも夢中になるな」

そして、同じことを言う。

「んな、無茶苦茶な!!」

「無茶苦茶で結構」

「結構って…あのねぇ」

全く本当、どうしたものだかというやつだ。
多分、今鏡を覗き込んだら、困り果てた顔が映るんだろうなと思うと笑いが乾く。

「佐助が…」

(はいはい、俺が悪いんでしょ)

「佐助が…他に夢中になってるのを見るより、佐助に怒られた方がマシだ」

「…は?」

それはふて腐れ気味の耳で受け取る準備はしてなかった音なんですけど。

「どうした?」

「いや、だって、あの…」

どうしたも何も、この事態はあまりに予想外で、あまりに想定外だ。

想定外すぎて、心配そうに覗き込んできた旦那の顔もまともに見れない。

ゆっくり、だんだん、どんどん…身体の何処かの何かが早くなっていく。

(いや、だって…)
(いやいや、そんな…)
(旦那のことだから…まさかだけど…それは…)

「それはさ…つまり?」

「お前は俺だけ見てれば良いと言うことだ」

(…わー!!わー!!わー!!)

旦那の『そんなこともわからんのか』と言う無駄に男前な顔が憎い。
何処かの何かが熱まで持ちだして、それを全身に送りまくってるのも憎い。

「…は、はははは恥ずかしいこと言わないでよ!!」

手で顔を隠してみたけど、熱は手で隠せないぐらい広がってしまってるから何の意味も無い。

「どこが恥ずかしいのだ?」

しかも旦那の頭には『?』しか飛んでないもんだから、本当意味がない。

「全部!!もう全部!!」

「?全部?」

本当はわざとやってるんじゃないかって思えてきたけど、ちらりと見えた旦那の顔は真面目くさってる。

「全部って言ったら全部なの!!」

「だから全部とはどこだ?俺はただ『お前は俺だけ見てれば良い』と言っただけでは…」

旦那は不服そうに俺の方に身を乗り出してきたけど、何時もなら平気なその近さにどぎまぎとする。

「あぁもう…!!」

もう無理、身体が限界。
耳は脈打つし、目が回る。
このままだと旦那に殺されるかも…なんて思っちゃったら旦那の頭掴んで引き寄せて、無我夢中に唇押し付けて。

「ほら!!ちゃんとみてるからもう黙ってて!!」

なんて言っちゃって。
全く、どうしてくれんのさ。

まぁ、でも
旦那の何処かの何かも速くなって真っ赤になったら二人してお揃いだねって笑えるね。

「は、破廉恥な…」

「旦那もね」





ほら、俺様はもう笑う準備できてるよ?








-あとがき-----
もう中学生パロって固定して言わなくていいよねって感じですが、このノリは中学生くらいが可愛いんじゃないかなって思ったりなんかしちゃったり…

補足ですか、二人は付き合ってる前提です(今言うな)

リクエストですのであやか様のみ直し希望あり、持ち帰りなどOKです(^^)

では、終わりで申し訳ないですがリクエストありがとうございました!!
これからも、よろしければどうぞごひいきに!!!