ねえ、貴方はもう忘れてしまわれたのでしょうか。あの夜、二人でこっそり中庭で踊った舞踊を。
なんだか少しおかしくて、二人で笑ったあの夜を
私は全て覚えております、貴方との事なら何もかも…貴方からしてみれば些細なことでも私は、全て。
時計塔の針が2つ、高い場所で重なり合っていて。そういえばこの間読んだお伽話に、午前0時に魔法が解けてしまうお姫様の話があったっけ、なんて。
この中庭は私にとっては思い出の場所なのだ。幼い頃に紅炎様と叶うはずもない誓いを交わしたりなんかした、思い出の場所。
紅炎様は昔、此処で私に花冠を作って「俺が王になったらお前を正室として迎えよう。」と誓ってくれた。
紅炎様はもう忘れているかもしれない、昔の話をこうして思い出しながら私は城を後にする。
私達の一族は先日、父上の悪行により貴族としての栄華な歴史に幕を下ろした。
そして私もその地位によって与えられていた皇子皇女達の相談相手という立場を下ろされてしまったのだ、もう此処には居られない。
出ていく前にせめてこの景色を、と中庭に立ち寄ったのはいけなかった。未練なんて無かった筈なのに溢れてくる思い出に、今更この城は私に思い出を磨かせて涙を流させる気なのか、なんて考える。
紅炎様も紅炎様だ、散々期待させておいて皇帝になるどころか私と婚約の話すら来ていない。やはり若かりし頃の口約束などこの歳まで信じていた私が愚かだったのか、なんとも虚しい恋模様
紅炎様はその場の勢いで言ってしまっただけかもしれないけれど、私は想い慕う相手にそんなことを言われて少し期待してしまっていましたのよ、なんて。
まあただの平民に成り下がってしまった以上、もし紅炎様が約束を果たそうと私を妻として迎えたとしても、私と婚約するよりも他の地位のある女性と結ばれた方が何かと都合が良かろう。恋した相手が悪かったのだ、って強がりながら私は城を後にした
約束を全然守ってくれなかった貴方だけれど、それでも心の中は貴方への愛に満ちております。
ここを去った後も永遠に私は貴方の幸せを願っております、紅炎様。
………なんてね
Music..ひなた春花
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