「なあ頼む悪かったって。な?許してくれよ!」

どれだけ語りかけながら追い掛けても彼女は歩を遅める事はなく、それどころか早足で去っていってしまうので必死に呼び止める。

事の発端は数時間前。最近あまりイチャつけていない愛おしの彼女である綺月と今日こそは全力でラブラブな夜を過ごすんだと意気込んで彼女の元を訪れれば寂しいと思っていたのは俺だけだったようで綺月はそれはそれは愉しそうにジャーファルさんと話し込んでいたのだ。

つまりはまあ、単純に嫉妬したのである。
カッとなった俺は師匠にタイミング良く誘われた事もあって所謂『女の子達とイチャつくお店』に行ったのだった。
そこで女の子を侍らせて綺月とジャーファルさんの事は忘れようと楽しんでいると、師匠を連れ戻しに来たジャーファルさんに付き添っていた綺月にバッチリ現場を見られてしまった。

目を見開き、硬直する彼女と冷や汗を流しつつもジャーファルさんにべったりな彼女に、無理矢理蓋をしていた嫉妬心が溢れて気が狂いそうになる俺。
俺らのことを知っている師匠とジャーファルさんもやばい、という顔をする。どうやらジャーファルさんはまさか此処に俺も居るとは思わなかったみたいだ。

次の瞬間彼女から飛んできたのは頬への裁きの鉄槌。つまり平手打ちで、先程まで硬直していた彼女は今は涙を流しながら俺にこう言うのだ。「アリババの馬鹿!最低!もう大嫌い!!」

その言葉に溢れそうになる涙は堪えて店から飛び出した彼女を追い掛けるべく師匠に一言理ってから同じように店を飛び出して冒頭に至る。

ごめん、ごめんと何度謝罪を繰り返しても無視を決め込まれる。
仲間内で一番足が早くて身軽な彼女に俺が追いつけるわけもなく俺らの間はどんどんと広がっていって焦りが募る。

そして何度目かの呼び掛けで彼女は足を止めるとこちらを振り向いて「もういい、別れる」とだけ呟いた。浮気する人は嫌い、どうせ私なんかキープだったんでしょ、とぽつぽつ話す綺月につい大声で「違う!!」と叫んだ。驚きの表情をする綺月に、今しかないと嫉妬していたことも全てを打明ければ綺月は複雑な表情をした後に困ったような微笑みを浮かべた。

「馬鹿だなぁ、アリババは。」
「ば………っ!?」
「私は貴方とシャルルカンさんみたいに、ジャーファルさんに師匠になってもらったの。今日は初めての鍛錬だったからってまずは稽古を付ける前にお互いに慣れよって話になったから雑談会だったのよ。」
「………へ?」

その言葉に一瞬疑問を浮かべるも、そういえばこいつは俺らと同行するようになる前は暗殺の名手だったことを思い出す。そういや出会いだって俺のことを暗殺しに来たところから、だったか。
なら元暗殺者のジャーファルさんを師匠に、というのも納得がいく。

状況を理解してしまえば嫉妬していた自分が恥ずかしくなって、ホントにごめんなと言って彼女を抱き寄せた。彼女はもう気にしてないよと言って笑った。











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