従者の受難



あれから三日が経つがあのキス事件以降、白龍とは顔を合わせてすら居ない。避けられてでも居るのだろうかと考えながら庭の隅に座っていれば第一皇女である白瑛様…つまり白龍のお姉様の一番の従者である青舜が駆け寄ってきた。

「いた!!綺月、探したよ!」
「青舜…?どうかしたのか?」

従者立ちの中でも仲の良い青舜にそう声を掛ければ焦ったように青舜は声を上げる

「皇子が…白龍皇子が、三日前の夕飯から何も食べていらっしゃらないんだ…それどころか、部屋からも出て来なくて…。皇女が呼び掛けても応えてくれなくて、今もうこうなったら綺月しかいないって皆で探してたんだよ!!」
「……マジかよ、わかった。白龍のとこな」

頼んだよー、という青舜の声を背に走り出す。向かうは我が主の部屋だ。





「白龍、居るんだろ?出て来てくれよ。皆お前を心配して……」

そこまで言ったところで解錠する音が聞こえて扉が開く。出て来てくれたのかと喜んだのも束の間、扉からは白龍の腕だけが出て来て、そのまま強引に俺は部屋の中に引き込まれた。

そしてまた背後で施錠する音が聞こえる。見てみれば最後に見た時より相当窶れてしまっている白龍がそこにはいた。

白龍は扉が開かない事を確認すると、俺のことを力強く抱き締めた後にまたあの時と同じようにキスをした。

「………綺月は、何時から義姉上と恋仲になっていたんだ。」

漸く喋ったかと思えばそれである。あねうえ、と聞いて白瑛様が思い浮かぶが十中八九紅玉のことを指しているのだろう。だとしたら誤解である

「紅玉のこと、か?」

一応念の為に聞いてみれば俺を抱きしめていた手に力が入り、爪が立つ。痛いよ、と言えば少し力は緩んだが目の前の肩は震えていた。なんなんだ一体…

「もしかして、好きなのか?」

そうつぶやいた瞬間に白龍の肩は驚くくらい跳ねて、顔を真っ赤にしながら俺から離れた。分かり易い反応をする幼馴染みに笑みを零すともう一度口を開く

「義理とはいえ姉弟だもんなぁ、そりゃあ言いにくいよなぁ。」

うんうん、と頷けば白龍から「お前は何を言っているんだ?」と声をかけられるが照れ隠しなのだろうと気にせずに「安心しろよ、紅玉と恋人みたいなことやってんのはただの両公認のお遊びだ。付き合ってるわけじゃない」と説明すれば、それは本当か、と食いついて来た。

「つまり、お前は今付き合ってる奴は居ないんだな!?」
「いねぇって。」
「じゃ、じゃあ……想い人は…居るのか、」

深刻そうに聞かれて俺は一瞬答えるべきか迷うも、正直に口を開く。「いる」と。
すると白龍はまたショックを受けたような顔で俺の肩を揺さぶるのだった。

「そ、そそそ…それは、誰なんだ!?」
「誰が教えるかよ」

そう答えれば白龍はまた傷付いたような顔をする。

それにしても、白龍は紅玉が好きなのか、全くもってノーマークだった。
はあ、と溜息を零せば白龍が心配そうに見てくる。ホントにこいつは……。


初恋は実らないとは、よく言ったものだ












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