従者と友人



あの後は暫く姫……いや、紅玉とあの場で少し語らい、今は彼女の自室へと移動中である。
というのも「友達」という存在ができて大層嬉しいらしい紅玉が自室で共にお茶をしようと提案してきたからである。
元々皇女と従者としての関係はほぼ皆無だったからか、紅玉との友人関係にも次第になれてきた。

「それにしても、本当に綺月は綺麗な顔してるのねぇ。私の婚約者も綺月みたいな美形だったらいいなぁ」
「……婚約者がいるのか。」

部屋に入って席に促されて座ってからの最初の一言がこれである。
そんなに言う程整った顔はしていないだろう、と毎日鏡越しに見る己の顔を思い浮かべながら頬に触れていると、紅玉は紅茶を飲みながら目を伏せる

「私も、女の子だもの。普通の女の子達みたいに恋愛して、意中の相手と結ばれたかったわぁ…。」
「……紅玉」

今にも泣きそうな顔をする彼女に手を差し伸べて髪を崩さぬ様に撫でてやれば、「少し魔が差しただけよ」と紅玉は力なく笑ったから俺は軽く紅玉の頬を叩く

「友達の前でまで強がんなくて良いんだよ。」

その言葉に紅玉は目を見開いた後にぽろぽろとその瞳から大粒の涙を流し始める。俺は黙ってそれを見守っていた。
練家の人の泣顔を俺は1日に何故2回も見ているのかは些か疑問ではあるが。






落ち着いた紅玉と、またぽつぽつ話し始める。婚姻の儀を行いに来週から婚約者の待つバルバットに行かなければならないこと、しきたりとして婚姻当日まで相手の顔を知る事が出来ない事。
そして最後にこう言った

バルバットに旅立つ前までで良いから、恋人ごっこをさせて欲しい




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