皇子の葛藤



どうしよう、どうしようどうしよう
やってしまった、と無我夢中で逃げ出した。火照った頬に風が当たって心地良いが今はそんな呑気なことを言っている場合ではない。

自室に辿り着くとずるずるとその場に座り込む。扉にもたれ掛かりながら両手で顔を覆う。ああ、熱い。

先程走っていた際に擦れ違った侍女が心配そうに扉の前で「皇子、どうなさいましたか!」と呼び掛けるが生憎返答が出来る程余裕はなかった。

つい、無意識だった。
突然俺に敬語を使い出した幼馴染みに腹が立って、あいつがまた俺を白龍と呼んでくれた事が嬉しくて。
敬語を使われた時にあいつが遠くに行った気がしたから繋ぎとめておこうと必死になって縋った。

(だからってどうしてキスなんか…!)

嫌われてしまっていたらどうしよう。また俺の瞳は涙が溢れそうになってくる。

「おいおい、見ちゃったぜ?結構大胆なんだな。」

目の前からする声に勢い良く目を開けばそこには神官殿が愉快そうに口元を歪めて佇んでいた。
見ちゃった、というのは先程のことだろう。見られていたという羞恥心から更に顔に熱が集まるのがわかる。

「覗き見とは感心しませんね…。」
「たまたま見えたんだっつーの。でもまさか…色恋の噂が立たない奥手野郎だと思ってたら男が好きだったとはなぁ?」
「…………っ、」

何も返すことが出来なくて俯く。
そんな俺を見た神官殿は思い出したように呟く。

「そういやさっきババァとあの従者が仲良さそうに話してたなぁ…。こりゃあババァに従者取られるんじゃね?」
「義姉上と…綺月が……?」

その言葉を聞いて俺は立ち上がり、部屋を飛び出した。
向かうは先程のあの場所









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