三年の教室前付近の廊下を歩いていた楠木は、ふと目をやった先に、少しいづらそうにしている小柄な少年を見つけた。


「おっ、小湊」
「あ…楠木先輩。こんにちは」


小湊春市。同級生でセカンドのレギュラーである小湊亮介の弟で、控えのニ遊間コンビでもある。


「何やってんだこんなとこで」
「移動教室なんですけど…降谷くんが今トイレ行ってて」
「おー、そういや降谷と同じクラスか。普段でも仲いいんだなーお前ら!」
「仲いい…」


春市は少し赤くなった。昔から友達は少ないほうだったため、言われ慣れておらず気恥ずかしい。


「ん?なに照れてんだ?」
「えっ、な、なんで分かるんですか?」
「なんでもなにも…分かりやすいぜ、お前」
「そうですか…?」
「ああ。そのくらい素直なほうが後輩らしくて可愛いよ」


おっと、小湊兄弟にはこのワードはNGだったか?と、楠木は笑った。

普段ならあまり嬉しくない言葉だが、なぜか楠木に言われると嫌な感じはしない。不思議な人だな、と春市は楠木を見上げる。


「降谷が帰ってくるまで一緒に待っててやろーなー」
「えっ、いいんですか?」
「お前をここに一人で置いてけないだろ?心配だし、もしお前が三年のお姉様方に喰われたりしたら、俺が亮介に怒られちゃうよ」
「く、喰われ…?」
「あれ、気づいてない?お前、女子の視線集めてんぞ、さっきから」


楠木の言葉通り、先程から春市を見て、あの子可愛い、声かけちゃおうか、小湊くんの弟だよね、などと囁いている女子の集団がちらほら。


「楠木くん、後輩?」
「おー。亮介の弟」
「可愛いねー紹介してよ」
「お姉さんと遊ぼ?」
「ははは、俺が亮介に殺されちゃうから勘弁して?」


クラスの女子を軽くあしらい、楠木は春市を振り返って、なっ、と言った。


「何気に目立つからなーお前」
「す、すいません…」
「いや謝ることないって」
「…先輩、友達多いんですね」
「え?そうか?」


春市と話している間も、野球部はもちろんそれ以外にも男女問わず、たくさんの三年生が楠木に軽く声をかけていった。春市はそれが少し、羨ましいなと思ったのだ。


「俺、あんまり友達いなくて」
「ん?…あーまあ確かに多くはなさそうだな。けど、降谷だろ、沢村に…金丸と東条も、最近仲いいじゃん」
「先輩、よく知ってますね」


春市は少し驚いた。部活中はほぼ一緒にいる一軍トリオはともかく、金丸や東条と最近親しいことなど、本当によく見ていないと分からないだろう。


「可愛い後輩のことなら何でも知ってるよ、俺は」


ああそうか、と春市は思った。こういう人だから、周りに人が集まるんだな、と。


「俺…楠木先輩みたいになりたいです」
「え?ショートに転向するのか?これ以上ライバル増やさないでくれよなー。倉持だけで十分だって」
「いやそうじゃなくて」
「あ、違うの?俺はてっきり、ショートになって亮介とニ遊間コンビを組みたいのかと」
「いや、だから違いますって」
「?なんかよく分かんないけど、頑張れよー」


ぽん、と、楠木の手が春市の頭に乗る。はい、と春市は笑顔で答えた。


「…楠木先輩?」
「お、降谷!ほら、小湊が待ちくたびれてんぞー」
「もう、遅いよ降谷くん」
「…すいません」
「ははは!謝るなって!じゃあ、俺行くな」
「あ、はい…ありがとうございました、楠木先輩」
「いいっていいって」


じゃあなー、と、手を振りながら歩いていく楠木の後ろ姿を、春市はしばらく見つめていた。


「…楠木先輩」
「え?」
「…で、合ってた?」
「うろ覚えだったの?!」










さて、少し離れたところでは。


「ゾーノっ」
「うわ、亮介さん!」
「何、その反応。…寂しいの?」
「そ、そんなことないですよ!」
「強がるなよ。…あーあ、楠木なんかに懐いちゃって」
「いや、寂しいん亮介さんのほうやないですか…」
「ん?何か言った?」
「いえ何も!」




楠木先輩と春市くん
(行くぞ春市ー)(あっ、フミ先輩)
(あいつらいつの間に…!)
(亮介さん、どうどう)











楠木先輩が地味に好き。
春市と楠木先輩のニ遊間がみたかった!



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