「ゾノ、ちょっとー」


倉持がドアを開けると、いると思っていた前園はおらず、前園と同室の一年であり、倉持の尊敬する二遊間の相棒・小湊亮介の弟である小湊春市が少しびっくりしたようにこちらを見ていた。


「あ、…今ゾノ先輩いません」
「おお、弟くん。どこ行ったかわかるか?」
「ちょっとわかんないです…あ、でも、すぐ戻るって言ってましたから」


よかったら上がってください、と言いながら座布団を引っ張ってくる春市に、おーありがとな、と礼を言って部屋に上がる。


が、しかし。


いくら亮介の弟とは言え、同室の沢村の親友とは言え、倉持自身は春市との関わりはあまりない。練習試合で春市がセカンドを守る際はショートは三年控えの楠木が守っていたわけで。


「(話題がねえ…!)」


やばい。このままではやばい。かなりやばい。ゾノが帰ってくるまでの時間がどのくらいかもわからないのにそれまでの間この沈黙に耐え続けるなんて俺には無理だ、至難の技だ…!しかも弟さんを退屈させたということが亮さんに知れたら俺は…どうなっちまうのか考えるのも怖えぇ!

倉持がひとり悶々と考えこんでいる間に、春市は読み終えた漫画を片付け、お茶を入れ、ほっこりと和んでいた。


「倉持先輩」
「っはいスイマセン亮さん!」
「え?」
「はっ、俺は何を…」


亮介のことで頭がいっぱいだったせいか、春市に話しかけられた瞬間、思わず亮介の名前を呼び、あまつさえ謝ってしまった倉持。春市はきょとんとしている。


「わ、悪い…」
「…あの、こちらこそすいません」
「?何がだよ」
「いえ、その、兄貴が倉持先輩に何か…?」


そんなに怯えるようなことを、と申し訳なさそうに付け足す。


「いやいやいやまさか!んなこたねえって!」
「そ、そうですか?兄貴、昔から気が強いから。でも」
「でも?」
「兄貴が辛辣なこと言うのは、気を許した人にだけ、なんですよ」


愛の鞭ってやつです、と春市は苦笑する。


「そうか…亮さん、そんなに俺のことを」
「あの、やっぱり何かされて…?」
「ふっ、何かされてるどころじゃねーよ弟くん…聞きたいか、俺の苦難の日々を」
「あ、是非」
「何でちょっと嬉しそうなんだよ!全く、本当亮さんの弟だなお前はー」
「ははっ、兄貴ほどアレじゃないと思うんですけど…」
「兄貴のこと"アレ"呼ばわりだしな!いやー素質あるわお前」
「何のですか?!」




結局、前園が帰ってくるまでの一時間、二人は亮介について熱く語り合った。

亮介の横暴さ、たまに見せる優しさ、わがままさ、理不尽さ。いいところも悪いところも、思うままに。


「ええとこ一個しかないやんけ!」


この二人が仲良くなってからというもの、前園のツッコミ需要は急増したとか。




魔王の弟、兄貴の相棒



「亮さん!」
「ん、なに倉持」
「亮さんの気持ちはよくわかりました!それが亮さんなりの愛情表現なら俺はそれを受け入れます!パシりだろーと理不尽な暴言だろーと暴力だろーと!俺は亮さんの相棒ですから…って、遠っ!」
「なんかよくわかんないし長いし暑苦しいから先部活行くね」
「くっ…耐えろ俺、これも愛、亮さんの愛なんだ…!」
「気持ち悪いこと言ってないで倉持も早く来なよ。五秒待つから。置いてくよ」
「亮さん…!一生ついていきます!」
「それはウザイから嫌」ずびしっ。









倉持は亮介が大好きなんだよ(健全な意味で!)



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